頑張る40代!plus

2003年03月02日(日) 奇跡

“逢えない人の影をぼくは追っていた。
 いつかめぐり逢えるとトランプをめくった。
  奇跡をいつも夢見てはため息ついた。
  そこから一歩も出ずに” (自作詩『十九の頃』より)

ラジオで、山崎まさよしの『One more time, One more chance』という歌がかかっていた。
この歌を聴きながら信号待ちしていたのだが、ふと19歳の頃のことを思い出した。
あの頃、ぼくもこの歌のように一人の女の人を探していた。
その頃作った詩に、『明日はきっと』という詩がある。
「何もいいことがないから
 こうしてトランプ切るのです
 ほら明日は素晴らしいと出た
 願い事も叶うと出た

 逢いたくても逢えないから
 こうしてトランプ切るのです
 ほら明日は素晴らしいと出た
 明日はきっと逢えると出た

  嘘でもいいんです
  一時しのぎでいいんです
  明日何もなくったって
  またあさってに切るのです

 誰もいない夜だから
 こうしてトランプ切るのです
 ほら明日も素晴らしいと出た
 あの子もぼくを好きだと出た

  明日はきっと… 」

ギターを弾く以外、することがなかったので、いい結果が出るまで何度もトランプ占いをやっていたものだ。
一発でいい結果が出た時などは、「もしかしたら今日逢えるかも」というので、いつも街に出ていた。
なるべく人通りの多いところというので、通りに面した本屋に行っていた。
そこで、「もしかしたら」という奇跡を願っていたわけだ。
しかし、その人と逢うことはなかった。
その時の状況を他の詩に見つけた。
「見たことのある人が、
 笑いながら過ぎて行った。
 振り返ってみても誰もいない。
 ねえ、これが毎日なんだ。」

そういえば、その時本屋でちょっとした出来事があった。
本屋で長い時間立ち読みしていると、タバコが吸いたくなったものだ。
その本屋には喫煙場所がなかったので、タバコを吸う時はいつも外に出ていた。
足も疲れていたので、電柱に寄りかかり、時間をかけてタバコを吸う。
それを何十分か置きにやっていた。
何回目かの喫煙時間だった。
何か視線を感じるのだ。
ふと見ると筋向かいから、こちらを見ている女の人がいる。
何と表現したらいいのか、とにかく「ちょっと・・」という容姿の持ち主だった。
知らない人なので、誰か他の人を見ているのだろうと思っていた。

次の喫煙時間。
ぼくが外に出ると、筋向かいにある商店から、女の人が出てきた。
先ほどの女性だ。
彼女は、やはりこちらを見ている。
ぼくは「どこかであった人かなあ」と思い、目を凝らしてみたが、やはり知らない人だ。
ところが、ぼくが目を凝らして見たのをどう受け止めたのか知らないが、彼女はぼくにニコッとほほえみかけた。
ゾクッとした。
「変な女やなあ」と思ったぼくは、その後は目を合わさないでいた。
しかし彼女は、ぼくがその場を立ち去るまでそこに立っていた。

それから1年後、バイト先で仲良くなった男にその話をしたことがある。
彼は「それ、もしかしたら○商店の娘やないんね」と言った。
「その人有名なん?」
「有名も有名。おれたちの高校で知らん人はおらんかったよ」
「へえ」
「ちょっとおかしいんよ」
「え? 頭が?」
「それもあるんやけど。とにかく男に飢えとるというか、男を見るとニヤッと笑うんよねえ、あの顔で。おそらく、その時しんたのことが好きになったんやろうね」
「・・・」
「いいやん。家は金持ちみたいやけ。どう、つき合ってみたら?」
「冗談やない!」

それから数年後のある日。
高校時代の友人が、「しんた、○商店の娘を知っとるかねえ」と聞いてきた。
「ああ、知っとるよ。ぬりかべみたいな女やろ」
「あの女、結婚するらしいんよね」
「え!? 物好きもおるもんやねえ」
「その相手というのが、うちの会社の人間で」
「へえ、そうなん」
「どうも金目当てらしい」
「そうやろね」
お見合い結婚だったらしい。
夫になる人の心中を、ドラマ『やまとなでしこ』の欧介さんふうに言えば、きっと「あなたの金以外、どこを愛せと言うんですか!?」ということなのだろう。

ところで、断っておくが、ぼくが探していたのは、その女ではない。


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