風邪を引いても止められないのがタバコである。 相変わらずぼくは外でタバコを吸っているが、最近そのことを『寒中タバコ』と呼んでいる。 別に寒い外で吸わなくても、暖かい暖房の効いた喫煙室で吸えばよさそうなものである。 しかし、心情的にぼくはそれを好まない。 寒波が襲ってきた時にも、ぼくは外でタバコを吸っていた。 雪が降りつけようとも、灰皿代わりに使っているバケツに氷が張ろうとも、ぼくは外でタバコを吸い続けた。
ところで、寒中タバコをやっていると、いろいろな生き物にお目にかかる。 いつもいるのは、犬、猫、すずめ、ハト、ヒヨドリ、カラスといったオーソドックスなものである。 しかし、たまに季節はずれの昆虫や、毛色の違った動物がやってくる。 12月だったか、バッタが飛んでいた。 思わずぼくは、携帯電話でカレンダーを見たものだった。 彼はきっと怠け者のキリギリスだったのだろう。
この間の寒波の時には、見たこともない鳥がやってきた。 小柄な鳥で、全体に茶色い羽毛で覆われているのだが、尾のところだけが赤みがかっていた。 おそらく近くの山から下りてきたのだろう。 家に帰って図鑑を調べてみたが、結局何という鳥かはわからなかった。 ぼくはその鳥を見て、「このクソ寒いのに、よくあれだけの羽毛で耐えれるなあ」と感心したものだった。
さて、今日の話である。 夕方、ぼくが例のごとく寒中タバコをやっていると、後ろの方から「パタパタ」という音がした。 何だろうと振り返ってみると、その音は黒い色とともに、ぼくの横を通り過ぎていった。 猫である。 昨日ぼくに鼻をつままれ迷惑そうな顔をした彼である。 彼は口に何かくわえている。 どうもすずめのようだ。 羽をバタバタさせている。 ぼくは小さい頃から猫が好きで、猫がいるといつも観察するのだが、魚をくわえている猫はしょっちゅう見る。 また、ネズミをくわえた猫も何度か見たことがある。 しかし、すずめをくわえている猫を見るのは初めてだ。 それだけ飛ぶものは、猫でも狩りが難しいということだろう。
猫は大慌てで草むらの中に入って行った。 よほど嬉しかったのだろう。 走っている様が、いかにも「やったぜ〜!」という感じだった。 おそらく、彼の生涯最高の獲物だったに違いない。
一方の雀は不運だった。 その猫は太り気味で、それほど俊敏とも思えない。 そんな奴に捕らえられたのだから、それこそ一生の不覚と言わざるをえない。 しかし、当のすずめは「一生の不覚」なんて考える暇もなかっただろう。 何せ、「あっ!」と思った時には、すでに命を落としていたのだから。 かわいそうではあるが、これも自然淘汰なのだろう。
その後、何度か寒中タバコをしたが、もうその猫にはお目にかからなかった。 普段は店の前に座り、優しい人間様に餌をねだっているのだが、今日はその必要がない。 すでに腹は満たされたから、きっと暖かいねぐらでも探しに行ったのだろう。
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