最近また酔っ払いおいちゃんが来ている。 このおいちゃんは夏になると必ず店に涼みに来る。 そして、酒を飲み、他のお客さんを威嚇したり、店員に絡んだりしている。 一昨日は、お客さんが警察に通報したらしく、警察から事情聴取を受けていた。 昨日は昨日で、店内でタバコを吸ったらしく、店長からつまみ出された。 相変わらず大活躍しているようだ。
夕方、おいちゃんの声がした。 「なんか、こらぁ!!」、「きさま殺すぞ!!」などと言っている。 また始まった。 おいちゃんが怒鳴っている所に言ってみると、そこには若いカップルがいた。 どうもその二人に絡んでいるようだ。 「おいちゃん、何騒ぎよるんね」 「騒いでなんかないわい!」 「今、怒鳴りよったろうがね」 「普通にしゃべりよっただけたい」 「じゃあ、『殺すぞ!』とか言いなさんな。この二人に迷惑やろ」 「迷惑なんかかけてない」 「じゃあ、若い人の邪魔しなさんな。静かに座っとき」 「おう」 その後もしばらくしゃべっていたようだが、そのうち静かになった。
さて、閉店時間になった。 閉店準備をしに、出入口のところに行ってみると、まだおいちゃんがいた。 爆睡しているようだ。 ぼくと店長代理は、おいちゃんを追い出しにかかった。 「おいちゃん、起きり。もう時間よ」 おいちゃんは知らん顔して寝ていた。 「あんたがおるけ、店が閉められんやろうがね」 ぼくがおいちゃんの上半身を起こそうとすると、おいちゃんは起こされまいとして力を入れている。 「何ね、起きとるんやないね。早く出てくれんかねぇ。時間なんやけ」 するとおいちゃんは、壁を「バン!!」と力いっぱい叩いた。 そして、また寝た。 「おいちゃん、おいちゃん」 今度は死んだふりである。 「おいちゃん、いい加減にしときよ。そんなことするけ、新聞に『死んだふりをする』とか書かれるやろ」 おいちゃんは「死んだふりなんかしてないわい」と言いながら、起き上がった。 「もう時間よ」 「馬鹿じゃないんやけ、わかっとるわい!!」と、地下足袋のホックをはめだした。 しかし、そのまま固まってしまった。 ぼくが「また警察が来るよ」と言うと、おいちゃんは「何も悪いことしてないわい」と言う。 そしてまた寝た。
しかたがないので、店長代理と二人で、おいちゃんを担いで外に出すことにした。 が、体が小さいくせにに、このおいちゃんは重い。 まるで『子泣きじじい』である。 途中まで担いで、そこに下ろしてしまった。 それでもおいちゃんは寝たふりをしている。 また担ごうとすると、おいちゃんは目を覚まし、「一人で歩いていく。よけいなことするな」と言う。 そのままフラフラしながら、おいちゃんは店の外に出て行った。
台風の影響か、外はパラパラと雨が降っていた。 おいちゃんは、これからどうするんだろうか? また自転車で、戸畑署に行って死んだふりをするのだろうか。 それを聞こうと思ったが、おいちゃんはそのまま自転車で立ち去っていった。
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