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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 脚本づくしの4時間!菊島隆三賞授賞式
渋谷ユーロライブにて、選考委員を務めた菊島隆三賞の受賞作品「百円の恋」上映と脚本を書かれた足立紳さんへの贈賞式。

「脚本家が選ぶ脚本賞」ということで、贈賞式もとことん脚本尽くし。佐伯俊道選考委員長の歯に衣着せぬ選評は潔さと懐の深さが感じられて勇ましく、加藤正人さんの熱のこもった贈賞スピーチからは、足立さんへの惚れ込みっぷり、期待っぷりが大いに感じられた。

佐伯さんだったか加藤さんだったかが、月刊シナリオに掲載されていた足立さんのエピソードを紹介。映画の現場で知り合って結婚した奥さんが、いつか自主映画を撮りたいと貯めていた二百万円を「あなたが撮って」と足立さんに託したという。「百円の恋」の次は「二百万円の嫁」という映画をぜひ、と言って会場のあたたかな笑いを誘った。

そういえば、菊島隆三賞も、菊島氏を支えた妻・宮子さんが菊島氏の遺産の一部をシナリオ作家協会に寄贈されて創設されたとか。

「百円の恋」脚本を見出した松田優作賞を主催する山口市の周南映画祭からお祝いに駆けつけた大橋さんのスピーチがこれまた熱かった。

高校時代、いじめられて死ぬほど思い詰めたときに駆け込んだ映画館でかかっていたのが「野獣死すべし」(主演:松田優作 脚本:丸山昇一)。映画に救われた自分が映画で誰かの力になりたい、という思いが直球で胸に届いた。地元出身の松田優作の名を冠した脚本賞を立ち上げ、第一回の募集に寄せられた151本をすべて読み、朝4時に最終選考作品を選考委員に伝えたときには、「百円の恋」が獲ると確信していた。いろんなものへの愛がこみ上げて入り交じって涙があふれる大橋さんを見ていたら、こちらも涙がじわり。

さらに足立さんの受賞スピーチがしみた。大好きな野球にたとえると「百円の恋」の脚本を書いていたとき、自分は6回裏で20点負けているような状況で、一緒にやっていた武正晴監督とプロデューサーはさらに追い込まれて7回裏で20点差つけられていた。「ここから逆転はできなくても、せめて一点返してやりたい」と思っていた。営業がヘタクソで、出来上がった脚本を持って回っても、なかなか相手にされなかったが、いいホンだからぜひ読んでくれと売り込んでくれた人たちがいて、形にできた。そして、20点差で負けている自分のそばで、一人チアガール状態で応援してくれた妻に何よりも感謝したい……。

二十点差の夫と、二百万円の妻。面白い脚本を書く人自身に、ドラマあり。

贈賞式内トークセッションでは、「百円の恋」主演の安藤サクラさん以外、登壇者は全員脚本家。受賞者の足立紳さん、菊島賞選考委員の筒井ともみさん、脚本「百円の恋」を見出した松田優作賞選考委員の丸山昇一さん、そして司会はわたし。

大先輩の丸山さんと筒井さん、脚本家がいま最も口説きたい安藤さんを迎えて、進行がつとまるのやら…と不安を抱えつつも、「脚本家が聞きたいことを聞こう!」と開き直り、いざ本番。
安藤サクラさん登壇の前に、前半は、足立さん、筒井さん、丸山さんで。「百円の恋」脚本の魅力と、映画「百円の恋」が成立するまでのお話をうかがう。

足立さんとは最近何度か会う機会があり、娘さんが生まれた頃、8年ほど前に百円ショップで働いていた経験が作品につながっているとうかがっていた。その部分を掘ってみた。

レジで堂々とスポーツ紙を読んでいる「百円の恋」の野間のようなふざけた勤務態度で、3か月でクビになったという足立さん。20歳くらいの店長に電話で説教されているのを横で聞いていた奥さんに「客いないんだから、いいじゃんね?」と言ったら、「人としてまずまともに生きろ」とガツンと言われた。(さすがは二百万円の嫁!)それで目が覚めて書き溜めたプロットが「百円の恋」や先日放送された「佐知とマユ」(創作テレビドラマ大賞受賞作)の原型になったそう。眠っていた種が昨年から次々と芽を出し、花開いているような印象があるが、「このままではいかん!」という危機感が熱量に変換され、キャラクターに宿ったのかもしれない。


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03月30日(月)
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