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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 模擬裁判員裁判の4時間で得たものとは
弁護士ドラマ(「そこをなんとか2」放送中!)の脚本を書いておいて、なんですが、「裁判員候補になったら厄介だな」と思っていた。
時間を取られるし、背負わされるものが大きすぎる。
でも、今日、模擬裁判員裁判を体験して、だいぶ考えが変わった。
声をかけてくれたのは、法教育の派遣授業を行うリーガルパークを率いる今井秀智弁護士。
「そこをなんとか」の脚本を書いていた2年前に知り合った。
「弁護士の今井さん」「脚本家の今井さん」と呼び合い、二人で「今井BK会」を名乗っている仲。なんだけど、お互いの仕事ぶりを見たことはなくて、「今度模擬裁判やるんですよ」「じゃあ見学させてください」ということでお邪魔させてもらった。
就職情報サイトのマイナビとリーガルパークの共催イベントなので、参加者は大学生や高校生。
片隅でひっそり傍聴のはずが「裁判員として評議に参加して」と言われ、日向へ担ぎ出されることに。

評議に入る前に、審理。
冒頭手続(人定質問、起訴状朗読、権利告知、罪状認否)。
証拠調べ手続(検察側立証=検察官の冒頭陳述、証人尋問・被告人の兄 弁護人立証=証人尋問 被害者の友人、被告人質問・被告人)
論告・弁論(検察官の論告求刑、弁護人の弁論、被告人の最終意見陳述)
……と本番さながらに進行する模擬裁判。
これが、舞台劇を見ているような、いやそれ以上に本物の裁判に立ち会っているような臨場感で驚いた。
会場は國學院法科大学院の法廷教室。傍聴席との間の柵も、ちゃんとある。
検察官や弁護士を演じるのは、法科大学院の学生さんたち。
被告人や証言者は今井弁護士関係の年相応の方々が演じているのだけど、いきなり投げられた質問に、「被告人として」「証人として」答えを返すアドリブ力がただものではなく、役者さんなのかと思ったほど。
「家って外からは鍵をかけられますけど、中からは、すっと出られるんですよね。変な言い方ですけど、中から閉じ込めることはできないんです」(被害者の徘徊について被告人回答)
「雨の日は傘を差し、今日みたいに寒い日には、子どもがお母さんの手を取るみたいに、仲のいい親子という感じでした」(被告人と被害者の様子を聞かれて被害者の友人回答)
などなど、人間臭くて現実味のある回答が咄嗟に出て来る。
これまでにも何度も模擬裁判をされているそうで、場数を踏むうちにキャラクターが出来上がったのかもしれない。
案件は、痴呆の母親を、介護していた息子が足蹴りして死なせた傷害致死事件。
(「ケガをさせる目的はなくても暴力をふるった結果であれば傷害は成立する」と今井弁護士が評議の際に補足。)
夜中にトイレに起きた母が間に合わずに床を汚し、息子がタオルを取りに行っている間に、さらに汚れを拡大。さらに母が息子をなじったため、息子は逆上。母をどかせるつもりで足蹴りをしたところ、母が倒れて起き上がらなくなってしまった。
死なせるつもりもケガをさせるつもりもなかったが、日頃から母をたたくことはあった。
また、施設入りをすすめる兄の申し出を断り、ヘルパーにも頼らず、かたくなに一人で介護を続けた。
被告人は3年前にリストラに遭い、収入はなかった。そのため、母の年金をあてにしていたのではと兄は思っている。
検察側の求刑は5年。
「暴力を続け」「自らをストレスのたまる状況下に置いた」結果、起こるべくして起きた事件であり、「昨今は介護の制度が充実しており、十分に防げた」事件であったというのがその根拠。
これに対して被告人側は、執行猶予を求めた。
「有罪であることは認める」ものの「突発的なもの」であり、「再犯の可能性は低い」。
また「自分への怒り、深い自責の念」は十分にあり、「刑務を無理強いするよりも、自分の過ちと一生向き合う」よう促したい、と主張。
「被告人は加害者であると同時に被害者遺族でもある」という言葉が印象に残った。
これら法廷で提示された情報を手がかりに、裁判員は2チームに分かれて評議をすることに。
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09月13日(土)
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