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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 堺市立「泉ヶ丘図書館」あらため「南図書館」講演
実家のある大阪府堺市高倉台の最寄り駅、泉北高速鉃道の「泉ヶ丘」駅前に、その市立図書館はある。「泉ヶ丘図書館」から名前を変えて、今は「南図書館」。
そこでの思い出は、妹の友だちに誘われて行った、演劇の出演者を募る説明会。作品に込める想いを演出の方が熱く話されたのだけど、集まった十名足らずの温度は低く、揚げ足を取るような質問が相次いだ。「せっかく張り切って説明会を開いてくれたのに、気の毒」と思いつつも、わたしはその冷えた空気をどうすることもできなかった。
わたしは応募しなかったし、妹も、誘ってくれた妹の友だちも応募しなかった。オーディションをやると言っていたが、選べるほどの応募が集まったのか、無事上演できたのか、わからない。正義感は強いけれど人前で発言する勇気はなく、気持ちと行動が噛み合わずに空回りしていた十代前半のわたしを覚えている。
あれから三十年ほど経って、同じ図書館のホールで、講演させてもらえることになった。同郷・泉北ニュータウン出身の西川俊充さんの絵本レーベル「エンブックス」で作った『わにのだんす』を売り込みたくて、堺親善大使の縁で堺市の広報課に「講演させてもらえませんか」と相談したところ、図書館につないでいただき、「子どもの読書週間記念講演」が実現したのだった。

十人足らずの前で何も言えなかったわたしが、二百名近い人の前で、しゃべる。前日の堺・教師ゆめ塾講演での質問で、「どうしてそんなにしゃべるのが好きなのか」と聞かれ、「好きなことは、いくらでもしゃべれる」と答えたが、予定していた1時間半を過ぎ、質疑応答を終えると2時間を過ぎ、交流サイン会で並んでくださった一人一人と言葉を交わしていたら、2時間半を過ぎた。
『パコダテ人』も『子ぎつねヘレン』も『てっぱん』(BSプレミアムで夜19時から再放送中!)も、それぞれで講演一本できるほど、しゃべりたいことがあるから、いくら時間があっても足りない。
お膝元の母校・三原台中学校でやった「中学生のドラマ脚本会議」での「大人組」「1年5組」「1年3組」の三者三様のドラマ版『魔女のパン』は、合計3時間分の授業を10分に凝縮して披露。

大人組は新キャラひろこの登場で、失恋の痛さが倍増。1年5組は小道具のりんごを巧みに使ってハッピーエンドに。1年3組は片想い・建築家という縛りをあっさり取っ払って若さ爆発の恋バナに。ひとつの正解へ向かうのではなく、みんな違って面白いのが、脚本作りの醍醐味。

子どもは、なんで?とそんで?の天才。「なんで?」と聞かれて「なんでも」で片づけると、せっかくの石ころを磨くチャンスをムダにしてしまう。「なんでやろ」と一緒に考え、「おもろい」「そんで?」と子どもの言葉を拾ってつなげていけば、石ころは転がり、磨かれる。そのようにして、わが娘・たまのネタの思いつきが「おじゃる丸」のエピソードに化けるまでの裏話も披露した。
ツイッターでつぶやいている「たま語」 @tamago_bot822 のことも紹介。

子育ての何気ない一瞬、ドキッとする一言、笑ってもらうしかないトホホ話、それらをどこかの誰かと共有することで、どれだけ子育てがラクに、楽しくなったことか。
また、「ぼうのついたくつ」(=ハイヒール)「むかしやさん」(=骨董屋)など、持てる語彙で何かを伝えようとする姿に、自分もこんな風に世界に名前をつけていったのだなと追体験できた。
生まれてから出会った人や出来事すべてがわたしの日本語の先生だったのだと感謝の気持ちを抱き、たま語は「娘のたまの言葉」にはとどまらない「言葉の卵」なのだと思い至った……という話をした。
もちろん、絵本『わにのだんす』の売り込みも忘れずに。

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04月21日(日)
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