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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ ウーマンリブ公演『サッド・ソング・フォー・アグリー・ドーター』
『子ぎつねヘレン』と『ぼくとママの黄色い自転車』に阿部サダヲさんが出演した縁で、大人計画から毎回舞台の案内が届く。

2009年10月07日(水) 鈴木蘭々主演『サッちゃんの明日』(大人計画)
2008年11月16日(日) 『七人は僕の恋人』
2007年05月27日(日) 大人計画『ドブの輝き』
2006年11月11日(土) ウーマンリブvol.10『ウーマンリブ先生』
2006年05月09日(火) 大人計画本公演『まとまったお金の唄』
2005年11月02日(水) ウーマンリブVol.9『七人の恋人』

毎回は本公演に対して番外編的なウーマンリブ公演で、『パコダテ人』の宮場ッあおいちゃんが客演。


タイトルは『サッド・ソング・フォー・アグリー・ドーター』。
不細工な娘に捧げる哀しい歌。
その不細工な娘を演じるのが、あおいちゃん。
といっても、猛ダイエットして、キレイになった後。

後添え(宍戸美和公)をもらった父親(松尾スズキ)と折り合いが悪くなって家を飛び出し、アイドルのなりそこないみたいなことをやって、久しぶりに家に戻って来たのは、婚約者(岩松了)を紹介するため。

父親と年の変わらない、人生で働いたことのないオッサン。当然、父親は面白くない。でも、それが娘の狙いなんじゃないかと思えてくる。

と、ここで、ふっと懐かしい記憶が浮かび上がってくる。

昔むかし脚本家になりたくてあちこちのコンクールに出していた頃、『あいうえお〜愛に飢えた男と女と大人たち』という作品を書いた。

日本語の最初の5文字、あいうえお、それが、人間の根源的欲求を物語るフレーズになっていることを発見した、その興奮にひらめきを得たのだけど、タイトル以外はよく覚えていない。

留守電に見知らぬ人からのSOSが入っていて、メッセージを頼りに助けに行く、といった話だった気がする。

後に上杉祥三さん率いる演劇ユニット「トレランス」の公演を観ていたら、「あいうえお、愛に飢えた男と女」とまったく同じ台詞が出て来て、わたし一人の発見ではなかったんだと思い知った。

古今東西いずれの物語も、愛に飢えた男と女が愛を求める話、といえるのかもしれないのだけど、話を大人計画公演に戻して、この作品には、とくに「飢餓感」を強く感じた。

そもそも、不細工な娘が痩せようとしたのは、父親の愛を得るためだったのだろう。

娘はキレイになったけど、父親との距離は変わらなかった。それどころか、父親を失望させてしまった。太っていた頃の自分のほうが愛されていたのだ。父からも、初恋を寄せてくれた幼なじみからも。

希望があるうちは、人は頑張れる。けれど、その希望に裏切られたら、絶望するしかない。

かつて不細工だった娘は、これ以上自分が傷つかないように、父親を悲しませる行動に出たのではないか。そうすることでしか父親の関心を引けないのだ。

娘には引きこもりの弟(矢本悠馬)がいて、これまた、愛に飢えている。引きこもることで、心配や迷惑という名の関心を集めている弟の元に、ウルトラマンのなりそこないのような全身タイツの自称未来人(荒川良々)が現れる。

未来といっても、ほんの数年先で、その時代に大戦争が起き、人類の多くが死に絶える。未来人の携帯に名前を告げると、未来での生死が判明する。弟は存命、姉は死亡。だが、姉が連れて来た婚約者は存命。弟と同じ名字になって。

婚約者は姉の元に婿入りした上、彼だけが生き残る、弟にとっては最悪な図式。

ところが、舞台終盤、姉である「かつて不細工だった娘」は未来人が残した銃弾に倒れる。絶命したとは描かれていないが、おそらくそれで命を落としたと思われる。となると、彼女が連れてきた婚約者は、婿入りしたのではなく、彼女抜きで養子になったことになる。

一度も働いたことのないは、天才的な和菓子職人だった。娘の父は、彼に、生業である和菓子屋を継がせることにしたのだ。長年の弟子である娘の幼なじみでもなく、血を分けた娘でもなく、娘を奪おうとしたオッサンに。


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07月01日(金)
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