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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 「週刊ブックレビュー」お薦め3冊追伸
昨日NHK-BSプレミアムで放送された「週刊ブックレビュー」。番組初出演だったのはもちろん、わたしにとっては久しぶりのテレビ出演だった(収録の模様は5/11の日記に)。

ustreamでは2月以降立て続けに3度しゃべっているし、アドリブでも反応できる手応えをつかんでいたのだけど、11日に臨んだ収録では、愕然とするほどうまくしゃべれなかった。こういうことを話そうと頭に浮かんだことを台本に走り書きした作業によって頭にもメモできた気がしていたのだが、緊張で言葉が飛んでしまった。ヘアメイクさんに二人がかりで髪とメイクをきれいにしてもらい、ピンマイクをつけ、ライトを当てられ……いつもとは違う段取りのひとつひとつに平常心が押し出されてしまった。

そもそもマイクを装着することすらわかっておらず、ワンピース一枚だけで収録に臨んだため、ウエストポーチに機械を入れたものをトイレへ行って腰に巻き、中からマイクをワンピースの襟ぐりに引っかけることになった。テレビに出演する方が着用するジャケットにはマイク隠しの効用もあったのだ。

書評ゲスト3人のイチオシを合評するクロストークでは、誰かの言葉に自分の言葉を引き出していただく形で、それなりに思っていることを話せた。しかし、肝心の、自分のお薦め本を紹介する言葉が、もう少し何とかならなかったのかと悔やまれる。

本棚を見ると、持ち主のことが見える。どんな本を薦めるかで、書評者の好みや人となりが見える。でも、わたしの言葉足らずの説明では、なぜその3冊を選んだのか、わかり辛かったと思う。

「起きてしまった物語は変えられない。物語の続きはあなたの中にある」と朝ドラ「つばさ」のヒロインの母、玉木加乃子は言った。収録で伝えられなかった続きを、日記に綴ってみることにする。

わたしが選んだ3冊は、いずれもすでに評価も人気も獲得している作家の最新本。平積みに並ぶような、手堅い、いわば「てっぱん」なセレクションだった。(この「てっぱん」という言葉も、リハーサルでは言ってたのに、カメラが回ると出てこなかった)

週刊ブックレビュー出演の依頼が来たのは、3月11日の震災の少し後だった。圧倒的な事実に打ちのめされ、作り物の脚本がどうしようもなく無力なものに思え、筆が止まり、立ちすくんでいた頃だった。

すでに読んだ本からお薦め本3册の候補を探った。広島の原爆投下後初めてGHQの検閲を受けて出版された本で、原爆の記録であると同時に行方不明の妻あてに綴られたあまりにも美しいラブレターでもある『絶後の記録』(小倉豊文)。人は網の目のつながりの中で生きていることを気づかせてくれる『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)。他に日本語が日本人の宝であることを大人が子どもに教えるのに最適(であり、大人自身も気づかされる)な『日本語は天才である』(柳瀬尚紀)などを思い浮かべたが、合評するイチオシ本は半年以内に刊行されたものという指定。「てっぱん」脚本執筆中は読書もままならず、最近の本は読んでいなかったので、イチオシの一冊を探すために書店へ足を運んだ。

脚本家にとって、書店は情報源である。棚に並ぶ背表紙のタイトルからヒントをもらうこともあるし、平積みをチェックして、今どんな物語が支持されているかを把握しておくことも欠かせない。腕組みして平積みのまわりをぐるぐるし、ふと顔を上げると、同業者と目が合ったりする。

震災後は本を読む気持ちにもなれなかった。けれど、書店に足を踏み入れると、読みたい本があふれていた。手に取って、読んでと訴える本たちと、次々と目が合った。目が合った本を何冊も連れて帰り、読みふけった。

わたしの好きな言葉に、"YOU can TAKE a BOOK ANYWHERE and VICE-VERSA"というものがある。海外の「本を読もう」キャンペーンのキャッチコピーで、1998年のカンヌ国際広告祭で出会った。「本はどこへでも連れて行ける。その逆に、あなたをどこにでも連れて行ってくれる」。立ちすくんでいたわたしに、物語の力をあらためて気づかせ、一歩先へ連れ出してくれた本たち。震災後に出会った3冊をお薦めしようと決めた。


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05月15日(日)
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