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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 「リア充」と朝日歌壇
たまった新聞をまとめて読む。新聞ではなく旧聞である。毎日ちょこちょこ目を通せばいいのに、それをさぼって、古新聞が雪崩を起こしそうなほどたまった頃に格闘の決意をする。ばっさばっさとページをめくってもけっこうな時間がかかる。日記も同じく、ためてしまう。この日記を書いているのは約3週間後の11月24日。「新聞整理」というキーワードを手がかりに記憶を掘り起こしている。
「リア充」という言葉を新聞に教わる。リアルな生活が充実していること、の意味らしい。恋愛なりサークル活動なりバイトなり、生身の人間の実感に、ネット上でのつながりや楽しみと区別してわざわざ名前がつく。そういえば、5、6年前に、友人が「ネットの友もリアルの友も大事」と言い、そういう区分けがあるのかと驚いたが、彼女の中では当時すでに二つの生活が並行して存在していた。
自分が手がけた作品をネットで知らせ、反響をネットで知るわたしの場合は、ネットとリアルは分けられるものではなく、密接に結びついている。ネット上で知り合う人とは作品が仲人になる場合が多いし、ネットの生活の充実とリアルな生活の充実は連動している。USJの期間限定サイトLimited Christmasに書き下ろした短編小説は、長年応援してくれた友人の熱意で実現した仕事で、ネットでの広がりをメールで分かち合うことで、また友情をあたためあうという、まさにネットとリアルの掛け合わせだ。
リアルかバーチャルかということを考えつつ新聞を整理していて、朝日歌壇はどちらだろうと思う。インターネット応募はできず、ハガキで出して紙面で確かめるアナログな世界であるが、応募者同士のつながりはリアルではなく、紙面を共有する縁はバーチャルなものだ。けれど、新聞の活字のもたらす効果か、短歌の向こうに生身の人間や生活を感じる。
ホームレス歌人の公田耕一さんとアメリカの獄中から投稿する郷隼人さんが気になり、朝日歌壇観察を続けている。2009年08月03日(月) 応援団と朝日歌壇と子守話はエールつながり以来日記に綴っていなかったので、ひさしぶりの観察記を。
8月16日 公田さん、郷さんともに採用。
馬場あき子選
マクドナルドの無料コーヒー飲みながら方代さんの伝記読み継ぐ (ホームレス)公田耕一
精魂をこめて造園せし我の禅ガーデンは踏み躙らるる (アメリカ)郷隼人
高野公彦選
朝顔もラジオ体操も〈白熊〉もみーんな懐かしい祖国(くに)の夏休み
公田さんのマクドナルドの歌は高野さんにも選ばれていて、「方代さんの伝記」とは「田澤拓也著『無用の達人 山崎方代』か」と選者の推測がコメントされている。
この日は他に、
大寺も我も等しく青時雨回廊に添ふ水音聞くなり
(飯田市)福岡重人
に心惹かれた。「毎回点字の応募」と選者・永田和宏さんのコメント。
8月30日 この日は郷さん採用、公田さんの歌は見当たらず。
辞書もあり、三食・洗濯(ランドリー)・医療にシャワー全て無料(フリー)のわれらの暮らし
9月7日
瓢箪の鉢植えを売る店先に軽風立てば瓢箪揺れる
公田さんの歌を見つけると、ほっとする。歌が届くことで、安否確認をしている。
点訳の朝日歌壇の今届きなぞりてさがす公田耕一(都留市)長田美智子
この人の歌に、そうそう、と共感。この後約一か月の朝日歌壇が行方不明。毎週月曜の朝日歌壇だけは目を通し、切り抜いて別にまとめてあるのだが、公田さん、郷さんともに掲載されていない場合は切り抜かないので、もしかしたらそういう週が続いたのかもしれない。
10月12日以降、郷さんの採用は続くが、公田さんが姿を見せなくなった。
ソルダッド山の禿げたる稜線に月の船出づ絵本の如き (アメリカ)郷隼人
10月19日
日本より一日早し秋分の日も真珠湾攻撃慰霊日も
「ひとり寝の子守唄」など呟きて寝床(バンク)より観る月の光(かげ)かな
10月26日
獄中死遂げたる人が二人共我と同居したことがあった
夏時間おわり標準時となりぬただそれだけのこと秋は来にけり
11月2日
銀舎利のご飯を常に夢みるは我も山頭火のようなもの
11月9日には郷さんも姿を見せなかったが、興味深い歌があった。
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11月10日(火)
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