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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 一年ぶり!SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
去年、国際長編部門の審査員を務め、とても刺激的な経験をさせてもらった埼玉県川口市のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭。早いもので、あれから一年経ち、ただいま第6回を開催中(今年は7月10日〜20日)。関係者パスを用意していただいているので、できるだけ足を運ぼうと思いつつ、開催一週間目の今日になってようやく行けることになった。

おめあては、去年のクロージングパーティで仲良くなった藤村享平君の短編『アフロにした、暁には』。彼は函館港イルミナシオン映画祭のシナリオコンクールで市長賞300万円をせしめていて、同じコンクールの受賞者という縁で声をかけてくれたのだけど、その後で月刊シナリオに載っていた受賞シナリオ「引きこもる女たち」を読んだら相当面白くて、これからどんな作品を作っていくのか楽しみな青年。

短編の上映は午後だけど、せっかくなので、午前の長編も観ることに。『神の耳』(God's Ears)というアメリカ作品(予告編はこちらで)。ボクシングに打ち込む自閉症の青年ノア(マイケル・ワース監督自ら主演)が、ポールダンサーのアレクシアと恋に落ちるという純愛もの。あらすじを見ただけでは「裸同然で男を誘惑する職業の女が障害を持った男の純真さに惹かれる」ありがちな話という印象を受けたのだけど、二人が惹かれあっていく過程がとても丁寧で、本当に恋の始まりを見守るようなドキドキ感があった。アレクシア役のマーゴット・ファーレイが、ポールダンサーの妖婉さと素顔の優しさと聡明さという両面を実に自然に演じていて、それも作品の魅力になっている。

ダイナーで「卵なんてどこで食べても同じ」とうそぶくアレクシアに、離れたテーブルから鶏の蘊蓄を聞かせるノアという出会いから互いを意識し始める二人。ノアが「母親を迎えに行く」旅行にアレクシアが仕事仲間のキャンディとともに同行したことで、二人の距離はぐっと縮まるが、旅先で会うノアの叔父や祖母のキャラクターやそこで交わされる会話もとてもチャーミングだった。「2秒あれば人生は変えられる。Yes,I willというだけの時間がある」といった説得力のある台詞がちりばめられていて、それでいて語りすぎない。ラストでアレクシアが「LIVE NUDE」(生ヌード)の看板が掲げられた店を後にする場面、振り返ると、「LIVE」だけが目に入り、「生きろ」というメッセージになるのは、とてもすがすがしい。脚本を書いているのも監督で、編集もこなしたとのこと。なんてマルチな才能なんだ! 

終映後のQ&Aで監督は「コミュニケーションの映画を作りたかった」と話していたが、まさに、人と人がつながるというのはどういうことか考えさせられる作品だった。以前、「障害者と性」をテーマにした映画を作ろうとして、結局企画が立ち行かなくなったことがあったが、そのときのテーマもやはりコミュニケーションだった。その映画でやろうとしたことは、わたしが考えた以上にうまく、自然に、この『神の耳』に込められていた。タイトルの由来は劇中のノアの台詞で明かされるが、「誰にも自分の言葉が届いていないと思っても、神様は聞いてくれている」というような意味で、この言葉もとても心に残った。

「ノアを鶏博士にしたのはなぜ?」という質問には、「自身も鳥好きだから」と監督。「鶏は翼があっても飛べないので、その閉塞感の意味も込めた」とか。また、アメリカ映画によくある「貨物電車の通過待ち」の場面は、意図したものかという質問には、「撮影中に偶然貨物電車が通りがかり、監督の直感で使うことにした。通り過ぎて行く人生にたとえられると思った」とのこと。

出口で監督をつかまえ、「ダイアローグがとても良かった」と伝え、「鉄道好きだそうですが、日本の鉄道は楽しんでいますか?」と聞くと、「JR is great」という返事だった。写真に一緒に写っているのが、終映後に合流した藤村君。


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07月17日(金)
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