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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ パン屋少女と画家の恋(中学生のドラマ脚本会議その3)
「その服をヨシコが持って帰って繕ったら、次に会う口実もできるで」と話していたのを、「加藤先生すみません」と割って入って提案。「手を引いて逃げたときにヨシカズが転んでケガをする」という他の生徒のアイデアとの合わせワザで、そのときに服が破れて繕うことにしてもええねと話す。

原作で重要な働きをする古パンはなかなか出て来ない。それどころか、原作ではマーサが一方的な片想いを募らせるのに、一年三組版では早々といい感じになってしまっている。

なんて自由なんだ〜!

さらに恋バナは続く。ヨシコが服を繕ったら、ヨシカズはどう出るか?「お礼をする」という意見が出て「何を贈る?」と加藤先生。「絵」という答え。「いつも絵を持ち歩いていて、それをあげる」「誰が描いた絵?」と先生。原作では男は絵描きではなく建築家となっているので、「ヨシカズじゃない人の絵」という答えに落ち着きかけるが、「別にヨシカズが描いてもええんちゃうん?」という意見が出た。

おお、出ました!

思わず、わたし、興奮。実は前日(1月30日)の夜に大人組の描く本会議に参加された何人かの先生方と教育委員会の方と会食した際に「考えてみたら、絵描きの設定でも行けますよね」という話になったのだった。設計図ではなく油絵の下絵を消すのに古パンを使っていてもいいのでは、と。ただ、その場合は絵の具を塗る前に下絵を消すので、台無し感は設計図よりは薄れるけれど。

でも、大人たちがそのことに気づいたのは、脚本会議が終わって何時間もしてから。会議中に「建築家ありき」の縛りを取っ払った中学生のほうが、頭が柔らかい。

でも、大人にも柔軟な発想をする人はいて、大人組脚本会議で「古パンにハムとチーズをはさんでは?」と絶妙な変化球を投げ込んだ教育委員会のS氏が、わたしの隣で授業を参観しながら「なるほど、油絵だったらバターと相性がいいですねえ」と唸った。「バターを塗ることで、絵に味が出て、かえっていい絵になって、入賞したりしたら、災い転じて、ですよねえ」

最後まで通すことよりも議論が盛り上がったところにじっくり時間をかけたいという加藤先生の方針で、一年三組の脚本会議は、二人の恋が盛り上がったところでチャイムが鳴った。


「片想いありき」の縛りも軽々と取っ払ってしまった一年三組。「両想いになってから、画家の卵の彼が買っていく古パンにバターを塗る」展開をわたしは思いつかなかった。序盤からいきなり恋を盛り上げてしまうところに10代の若さを感じた。

授業が終わると、生徒たちが口々に「続きどうなるんやろ?」「もっとやりたかった」などと話す光景が見られた。「普通はさっと切り替えるんですよ。こんな風に授業の余韻が残るってことは、それだけ面白かったってことです」と教育委員会のS氏。

廊下に出ると「せんせ、せんせ」と女の子たちが集まってきて「サインください」と紙とペンを差し出してきた(ちなみに一年五組の子たちは「アドレス教えて」だった)。授業中熱心に原作のプリントの隅に漫画を描いていた子がいたのだけど、その子が「これあげる」と持って来た。よく見ると、「ミス・マーサ 40歳」のキャラクター像。


うわー、中学生から見た40女って、こんなオバサンなのか!
これもひとつの原作の解釈。

そして、もうひとつの絵は、


女の子によると「赤川ヨシコが車にひかれそうになったのを青山ヨシカズが助けようとして、死んでしまうところ」だという。
「ええっ。相手が死んでまうん? そしたら古パンはどうなるん?」と聞くと、
「古パンで墓石みがくねん。でも、ある日、バターつけたパンでみがいて、お墓ダメにしてしまうねん」

うわーーーーーーーー。


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02月01日(水)
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