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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ りんごで始まりアップルパイで実る恋(中学生のドラマ脚本会議その2)
なのに、次にお店に来たときに買い求めるのは、古パン。「わたしのアップルパイ、口に合わなかったのかしら」とマサヨはますます彼が気になる。
おお、序盤からドラマティックな展開。続いて、
盛り上がる
「恋するマサヨのファッション、ビフォーアフターでどう変わった?」と聞いてみる。髪型は? メイクは? 着るものは? 登場人物の見た目は、いろんなことを語ってくれる。その人の性格や気持ちだけでなく、季節も語る。ハイビスカスのワンピースだと季節は夏。あるいは、春にハイビスカスを着る「ずれた女」という描き方も。
「春で、さくらのワンピース」に落ち着いて、いよいよ、
行動を起こす
「消防車を見に行くのがいいと思う?」と代案を求める。土橋に惚れ直すか、土橋の貧乏を思い知るか、マサヨが行動を起こすきっかけになる場面にできないか。
この質問はちょっと難しかったようで、しばし、考え込まれてしまった。
ここで、「土橋が絵に見入る」という案が出て、ちょっと驚いた。気になる客が本当に絵描きがどうかを確かめるためにマーサが店に絵を飾る場面は原作に出てくるけど、位置的にはずっと前。原作にある要素の前後を入れ替えるのは、脚本の構成ではよくやる手で、ドラマ「ビターシュガー」でも二冊ある原作のエピソードの順序を動かしている。
その手を中学生が無意識のうちに使ったことに、びっくりした。
土橋が絵に見入ることで、隙が作れる。その後ろ姿を見て、服が汚れていたりほつれていたりしたら、マサヨは土橋が「売れない絵描き」であることを確信し、親切にしたい気持ちが募る。
なるほど自然。
と、ここで、後ろのほうから「ハンバーグ」という声が上がった。古パンにこっそりはさむのが、バターではなくハンバーグではいけないのか?と。「ハンバーグやったら、すぐにばれるやん」と別な生徒からツッコミが入る。「それやったらハチミツは?」
大人組では「ハムとチーズ」をはさむ案も出たが、生徒組も「古パンにはバター」の代案が出たのが面白い。
設計図の下書きを消す前に気づく可能性はあるけれど、バターではなくデミグラスソースで設計図が台無しになるという線も、なくはないか。でも、無理はあるか。
というわけで、原作通りバターで行くことに。このお節介のせいで、ラストは
ふられる
「土橋が結婚していて、妻が一緒に乗り込んできたら、ますます痛い」「結婚じゃなくて婚約にしたら?」という意見も。
「ふられるで終わっていい? ハッピーエンドでなくていい?」と投げかけると、教室の空気はハッピーエンドを支持。
「この人は建築家ですって言いに来る友だちとくっつくのは?」というアイデアが出るが、そうなると土橋がヒロインの相手役っぽくなくなるという反対意見が出る。たしかに捨て駒的ではある。
「じゃあ二人目の男ともダメになってしまう」という代案が出て、「りんご食べられへんのにアップルパイ食べさせるとか」。ちょっとひねって「アーモンドアレルギーなのに、アーモンドが入っていることに気づかず、アップルパイを食べてしまい、破局」という案をわたしが出し、「で、どうやって土橋とくっつくの?」
「バターのことを謝りに行く」
「でも、行くの遅すぎへん?」
「それやったら、すぐに謝りに行ってたけど、会ってもらえんかった」
と意見交換があって、「謝りに行くときはアップルパイを持って行く」というアイデアも出た。他にも意見が出るうちに、
「マサヨはアップルパイを持って土橋に謝りに行くが、土橋は意地になって会おうとしない。でも、マサヨが置いて行ったアップルパイがむっちゃおいしくて、友だちに買いに行ってもらう。マサヨは毎日アップルパイを買いに来る土橋の友だちが自分のことを好きなんやと思う。でも、実はアップルパイを好きなのは土橋だとわかって、ついに土橋と両想いになる」
というハッピーエンドが生まれた。りんごで始まりアップルパイで実る恋! この流れなら、「りんごで作ったデミグラスソース」で設計図を台無しにして、りんごで貫くのもありかもしれない。
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01月31日(火)
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