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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 1962年の広告ウーマン『その場所に女ありて』
その後、アイデアが律子から競合へ漏れたとあらぬ疑いをかけられ、解雇をほのめかされたときも、律子はチーフクリエイターの裏切りは自分の胸に秘め、自身の潔白と仕事への情熱を訴えて会社に留まろうとする。弱音を吐かなかった律子がこのときばかりは男連中を前に「女が一人で仕事だけの七年はご想像以上のものがあります」と切実に訴えるのだが、半世紀前の広告業界で女性が働くということは、今とは比べ物にならない窮屈さや重苦しさがあっただろうと想像する。わたしのいたマッキャンエリクソンという会社は外資系のせいか、若い女子も好き勝手発言出来る空気があったけれど、組合の担当で広告労協の女性会議なるものに関わったとき、平成の世になってからも、女泣かせな話はいっぱいあった。
脚本は鈴木英夫監督、升田商二という男性二人だが、仕事を背負って生きる女のしんどさがとても丁寧に描かれている。ただ、酔いつぶれて坂井の部屋に運び込まれて、互いの気持ちを確かめ合う場面で「僕の気持ちは決まっている」と言われて、「愛してるってこと?」と律子が答えたのが、強がりの鎧を一気に脱いだ気がして、もったいなく感じた。その前にネックレスを外す仕草だけで女モードのスイッチが入ったことを見せてくれたように、ここは潤んだ目でうなずくだけのほうがときめいた気がする。さらに欲を言えば、仕事一筋だった律子が坂井と一夜を共にした後の恋の高まりをもう少し見たかった。本当なら毎日でも会いたいのにコンペ準備でお互いそれどころではない。残業の合間にせつない電話の一本でもあれば、ようやくコンペ案の提出日に得意先で再会できた喜びと、その直後の失望の大きさが増したと思う。全体的に女は生き生きとしてたくましく、男はだらしなかったり情けなかったり。森光子と児玉清が演じる律子の姉とそのヒモの二人にも、それは象徴されていた。
広告業界を映画で観るのは面白い。T氏におすすめされたもう一本、『巨人と玩具』もぜひ観てみたい。こちらも1回めの上映は終了していて、2回目は8/20(木)7:00pmから。
07月09日(木)
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