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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 『築城せよ!』がヒットすれば、日本映画の未来は明るい。
さて、映画の内容について。公開時の新聞批評に「設定が奇抜な割に出来事が想定内」だと書かれていたが、エピソードに「あるある」というリアリティが宿っていたからこそ、「現代に蘇った戦国武将がダンボールで城を建てる」という突飛な設定に感情移入して観られた。数百年の時を超えて現代に迷い込んだ侍の戸惑いやドタバタを愛せるからこそ、彼の晴らせなかった恨みに心を寄せ、悲願の城を建てるために民と心を通わせようとする姿を応援したくなるのだった。
はまり役を配したキャスティングも、そのリアリティを支えていて、とくに殿様の霊に乗り移られる役場職員の「ふらぼん」(=ふらふらしたぼんぼん)を演じた歌舞伎役者の片岡愛之助さんの二面性がお見事。よく通る声と歌舞伎の所作の美しさに殿様の説得力が宿っていた。
江守徹さん演じる敵役の町長は、さすがの存在感。それでいてお茶目。海老名はなさんの建築科学生、その教官の藤田朋子さん、ふせえりさんの役場職員と女性も生き生きしていてチャーミング。各登場人物のキャラクターづけがうまく、一人一人が取る行動が実に自然で納得でき、悪役も愛せるところがわたし好み。
ちりばめられた小ネタと伏線が楽しく、ところどころに光る台詞があり、よく練られた脚本に感心した。日本らしい物づくり精神や故郷への思い、輪廻転生思想なども盛り込まれ、『築城せよ。』から長編らしい大きな物語に飛躍した『築城せよ!』。海外の映画賞で評価された短編と同じく、こちらの劇場版も世界に打って出て欲しい。
特筆すべきは、ラスト近くの絶景の息をのむ美しさ。ここ数年観た映画で最も美しく、映画らしいスケールのあるシーンで、これだけでもスクリーンで観る価値あり。欲を言えば、もう少し長く観たかった。あと5秒あれば、盛り上がった涙が落ちた。
しかし、その後、まさか烏に泣かされるとは。ダンボールと烏にこれほどの意味と愛情を込めた映画も珍しく、それらに注ぐ目線が優しくなってしまっているの自分に気づいて、不思議な余韻を味わっている。
宣伝にお金をかけられない映画は、存在を知られる前にひっそりとスクリーンから消えてしまいがちだが、この作品は、見過ごすのがもったいない掘り出し物。物語も井戸の底で眠っていた霊が眠りから覚めるという掘り出し物の話だし、撮影のために実際にダンボールで高さ25メートルの城を建てたエキストラやボランティアスタッフの底力を見せた点でも掘り出し物。
民が心をひとつにすればダンボールで城が建つように、一人一人が力を合わせれば、オリジナルでこれだけパワーのある映画を作れるのだ、と勇気が湧いてくる。今月の一本、この夏の一本に選んでも、損のない作品。これがヒットしたら、日本映画の未来は明るいと思う。
皆の者、築城せよ! 愛知、大阪他、全国で公開中。
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07月08日(水)
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