ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 蓼食わぬ虫 〜 ありやあらでものがたり 〜
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20081207
 
── 傾城傾国「北方に佳人有り。一顧すれば人の城を傾け、再顧すれ
ば人の国を傾く」── 漢書《外戚伝》
http://www2u.biglobe.ne.jp/~dnak/sangoku/kansyo.htm
 
 むかしあるとき、お茶屋の老女将が、妙なことを云った。
「知りあいのお手かけはんが、ヒマ持てあましてはるさかい、お付合い
しはったらどうどすえ?」
 
 与太郎は世帯持ちである。旦那持ちの妾と付きあって、あぶない橋を
渡るほど好き者ではない。
 よほどの傾国ならいざしらず、そんなはずはないのだから……。
 
 冗談かとも思っていたら、数日後、女が与太郎の店にあらわれた。
 与太郎が留守だったので、女房が相手をしたらしい。
 しばらく世間話をして帰ったそうだ。
 
 つぎに与太郎が居るときに現われたが、与太郎は居留守を使った。
 ふたたび女房と、しばらく世間話をして帰った
 ドアの隙からぬすみ見たところ、なんということもない女だった。
 
 数日後、女房あての手紙がきて「これからもよろしうおたの申します、
ご主人様に、くれぐれもよろしく」と書かれてあったらしい。
 いちおう買物客だから、叱って追いはらうわけにもいかない。
 
 つぎに来たときは、粋筋にくわしい友人が運よく居あわせていたので、
車で送らせた。初対面の二人は、いそいそと乗りあわせて帰っていった。
 あとで聞くと、祇園ではしごして、散財は女もちだったそうだ。
 
 与太郎は、念のため友人に注意した。「おまえは男前やから、不細工
な女ばっかり寄ってくる。いちいち相手したら身を滅ぼすぞ」
 友人は「わかった、これからは別嬪だけ相手する」と答えた。
 
 それ以来、女は現われず、友人も忘れてしまったように話題にしない。
 お茶屋の老女将も、ふっつり彼女の話をしなくなった。
 もちろん与太郎も「あの女はどうした」とは聞かない。
 
 はるか数十年たって、与太郎が思いだして考えていた。
 あれは老女将が、金回りの悪くなった与太郎に、パトロンを紹介した
のではなかろうか。
 
 旦那持ちの妾の相手をして、ときどき小遣いをせびれば、夜遊びには
不自由しなくてすむ。とびきりの若旦那だと、ややこしいことになるが、
与太郎なら程々と踏んだのではないか。
 
 こういう話を持ちかけておいて、思ったようにいかなければ素知らぬ
顔で忘れたふりをするのが、したたかである。
 このエピソードを知る唯一の友人も、数年前に亡くなった。
 
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12月07日(日)
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