ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 老人の海 〜 帆かける人々 〜
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20060126
 
 ◆ ひとりぼっちの二人
 
 最近の、ヤフー・オークションの目玉は、ホリエモンのジェット機と、
オジャマモンの6人乗りプロペラ機、ともに楽天オーナーが落札した。
 ホリエモン号は乱気流で、オジャマモン号は地震で失速したものだ。
 
 ホリエモンは、マスコミから逃れ、小型ヨットで日本を脱出した。
 《コロンブス航海記》《ガリヴァー航海記》《ロビンソン漂流記》の
三冊以外に、パソコンやケータイ、キャッシュカードなど持たずに。
 
 ひとりぼっちで、三ヶ月のちに、小さな島にたどりついた。
 郵便局の廃屋があったが、過疎のため人影がなかった。(*1)
 小柄な老人があらわれ、とれたての小魚をご馳走してくれた。
 
 その島の名も村の名も、ハーメルンだという。
 むかしから島の者は、みんなハーメルンと名乗っていたそうだ。
 したがって、老人の名もハーメルンにちがいない。(*3)
 
 つぎに老人は、妙な楽器を弾きながら、妙な替歌まで歌ってくれた。
♪「海の底で歌ってる妙な魚がいる。その声を聞くと、妙な気分になる」
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20031118 Dehmel,Richard《海の鐘》(*2)
 
 ホリエモンが、暇乞いすると、老人はこう答えた。
「明日の朝から海が荒れる。あさっての朝に発つがいい」
 その夜、ホリエモンはぐっすりと眠った。
 
 翌日になってホリエモンが、暇乞いすると、老人はこう答えた。
「明日の朝から海が荒れる。あさっての朝に発つがいい」
 その夜またしても、ホリエモンはぐっすりと眠ってしまった。(*4)
 
 ホリエモンが、退屈しはじめたので、老人は昔話をきりだした。
「わしは、これでも若いころ、ちょいとした有名人だったのさ」
 ホリエモンは、知るかぎりの有名人を思いうかべた。
 
 そして、しばらくためらってから、老人にたずねた。
「もしかして、あなたは?」「そうだ、わしもホリエもんなのだ」
 ハーメルンの漁夫は、かつて世を捨てた冒険家だったのだ。(*5)
 
 二人の有名人は、たがいに親しみをこめて抱きあい、乾杯した。
 そして、しばし二人で妙な替歌を合唱した。
♪「海の底で歌ってる妙な魚がいる。その声を聞くと、妙な気分になる」
 
 ◆ 妙な男たち
 
 ある日、ホリエモンが海の方を指して叫んだ。「誰か来るぞーっ」
「男か女かーっ?」「女らしいぞーっ」「年はいくつかーっ?」「波の
下で見えないーっ」「婆ぁかーっ?」「かもねーっ」「放っとけーっ」
 
 島に流れついたのは、落ちぶれたオジャマモンだった。
 二人のホリエモンに迎えられ、三人で妙な替歌を合唱した。
♪「海の底で歌ってる妙な魚がいる。その声を聞くと、妙な気分になる」
 
 このあと、楽天とソフトバンクのオーナー、ヤフーやグーグルの共同
開発者、くたびれたビル・ゲイツまで、ハーメルン島にやって来た。
 奇妙なことに、だれひとりパソコンを持ちこんで来なかった。
 
 こうして、ハーメルン島に妙な男たちが増えはじめた。(*5)
 オジャマモンが「これからは、この島をクルーゾー島と呼びませんか」
と提案したが、誰にも相手にされなかった。
 
 たがいに用のあるときは、メールのかわりに手紙を書くことにした。
 みんな珍しがって、毎日ポストをのぞくようになった。
 廃屋だった郵便局を再建し、ミキタニが郵便局長に就任した。
 
 彼らが、パソコンなしにぐっすり眠るのは何年ぶりだろうか。
 かくも快適な眠りが得られることを、ようやく気づいたのである。
 ついに、彼らの消息を知るものは誰もいなくなった。
 
 つぎの新入りは、ハーヴァード大学出の評論家ロビンソンと名乗った。
 病院の窓から釣糸を垂れている白髪の老人に声をかけた。
「爺さん、釣れるかい?」(つぎのオチは古典的傑作)
 
「お前はバカだな、こんなところで釣れるわけがないじゃないか!」
 ロビンソンも負けずにやりかえした。

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01月26日(木)
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