ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 子猫物語 〜 猫小屋ができたわけ 〜
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20050430
 
 柴原くんと与太郎は、いつもの川原で遊んでいた。
 その日、あわれな声で啼いている一匹の子猫を見つけた。
 生後まもなく、まだ目が見えないらしい。
 
 みすぼらしい子猫を抱きあげた柴原くんは、川の水で洗ってやった。
 あわれな子猫は、生まれてはじめての水浴で、くしゃみした。
 もはや柴原くんと与太郎は、この子猫を捨ておくことはできない。
 
 柴原くんは云った。
「可哀相だけど、ぼくんちに連れて帰ったら母さんに叱られるんだ」
 おなじことを考えていた与太郎も、うなずいた。
 
 ここで柴原くんは、すばらしい解決策を思いついた。
「あそこの教会の神父さんなら、きっと育ててくださるはずだ」
 与太郎は感心した。「へぇ、そんな人を知っているのかい?」
 
 教会の玄関に着くと、こんな貼り紙があった。
「1.ナントカ司教 2.ナニナニ神父 3.ダレソレ助祭」
 つまり、数字の回数だけベルを鳴らすと、当人が出てくるらしい。
 
 柴原くんがベルを2回鳴らすと、はたしてナニナニ神父が現われた。
 威厳あふれる銀髪の西洋人である。「ドウカ、シマシタカ?」
 気むずかげな相手に、柴原くんは、理路整然と用件を述べた。
 
「ぼくたち川原で遊んでいたら、この子猫が捨てられて啼いていました。
可哀相だけど、ぼくたち家に連れて帰ったら母さんに叱られるんです。
神父さんの教会なら、きっと育ててくださると思ったので来ました」
 
 ナニナニ神父は、ほんのすこし考えてから、こう答えた。
 庭に、オジさん(寺男)がいるから、いま云ったことを話しなさい」
 柴原くんが了解して、お辞儀すると、ナニナニ神父はドアを閉めた。
 
 柴原くんは、庭のオジさんを探しあてて、同じことを云った。
 オジさんは、ほんのすこし考えてから、こう答えた。
「そうだな、その子猫に、お家を作ってやろう」
 
 与太郎と柴原くんは「へぇ、そんなことできるの?」と感心した。
 ふたりの見ている前で、オジさんは大工道具と板切れを用意した。
 たちまちのうちに、子猫の家ができあがった。
 
 オジさんは、ふたりに云った。「さぁ、これで安心したろ?」
 安心したふたりは、オジさんにお辞儀して、教会を後にした。
 いまも与太郎は、柴原くんとナニナニ神父やオジさんを尊敬している。
 
 ◆
 
 このエピソードは、小学校五年の秋ごろの記憶である。
 何度か思いだしながら、今回はじめて書きとめた(20050429)。
 柴原くんの父は、別稿《街の灯》に記した病床の日本画家である。
 
 いま思うに、神父と寺男の連係プレイが、あまりにも絶妙である。
 カトリック教会では、拾った子猫を連れてくる子共たちへの対応策を
大昔から講じていたのだろうか。
 
 まして犬小屋ならともかく、猫に家を与えても定住しないはずだ。
 そんな習性を知らないとばかり思っていたが、神父も寺男も百も承知
だからこそ、小屋を建ててみせたのではないか。
 
 この話を完成するには、後日ふたたび子供たちが教会を訪れて、猫が
失踪したことを知らされるところまで書くべきかもしれない。
 しかし子供たちは、その後、子猫の存在を忘れてしまったのである。
 
 ◆
 
── 仁木 悦子《猫は知っていた 1957 講談社大衆文学館'96》
/第三回江戸川乱歩賞
 
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 カトリック教会の聖職者:叙階(じょかい)
 
01.教皇(法王)(パーパ [羅] ポウプ [英] )
02.枢機卿(カルディナリス [羅] カーディナル [英] )
03.総大司教(パトリアルクス [羅] )
04.首座大司教(プリマス [羅] )
05.大司教(アルキエピスコプス [羅] 司教中の有力者で他の司教を監督。
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   上位聖職階級(独身)

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04月30日(土)
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