ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 幻の《弦楽技法》 〜 未投函書簡より 〜
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20030115
出谷 啓 殿
前略。このほど貴君のホームページを発見したが、メール・アドレス
の記載がないので、あてずっぽうの住所で郵便ポストに投函する。
メールなどなくても一向にかまわない、と君はいうかもしれないが、
いつどんな情報が寄せられるかもしれないので、ぜひ開設したまえ。
同封の手紙は、ほとんど無駄話にすぎないが(三年前に電話したあと)
《弦楽技法》という書物について書きはじめたところ、脱線して未完の
ままパソコンの中に眠っていたものだ。いまだに本は見つからない。
さいきん私的なホームページを連載するうち、高校時代のエピソード
など思いだしたので、この手紙ごと公開することにした。
とくに返事は要らないが、貴君の生年月日を教えてくれないか。私の
人名辞典では、一九四〇年六月、大阪生れというところまで判っている
が、著名なる音楽評論家にして、この日付だけが欠落しているのだ。
(占いや占星術にあらず。プライバシーとも関係がなく、公称でよい)
草々。 (Let'19990630-20030115)
── http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/list?id=87518&pg=000000
*(与太郎あての返信は、上記のWeb上で公開されることがあります)
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── 出谷 啓《演奏会評》http://homepage3.nifty.com/detani/index.htm
── 出谷 啓《クラシック この演奏家を聴け! 19960410 音楽之友社》
幻の《弦楽技法》 〜 出谷 啓氏あての未投函書簡より 〜
国語の授業中に眠りこけていた与太郎を、誰かがゆり起した。
座席配置は左に佐々木敏男、右に遠藤瓔子、前方には中国人の林英子。
やや変則的だが、出席番号は男女別のアルファベット順による。
岡谷清子先生は、中国語に堪能で、ときには林君に原語で発音させる
こともあったが、この日は楽器にくわしい与太郎が指名された。
寺田寅彦の随筆に「ヴァイオリンの演奏は、右手の弓がもっとも重要
である」とあるのは本当か、と質問されたのである。
後方の誰かに起こされた与太郎は、なにしろ教科書を持っていない。
左隣の佐々木君は教科書に頭をのせて眠っているので、右隣の遠藤君の
教科書を奪いとって(目を通すフリをしながら)出まかせに答える。
「まさしく、そのとおりであります!」
大声で答えると、先生は満足し、与太郎はふたたび眠りについた。
夢のなかで考えるに、漱石一門の高弟にして、高名なる物理学者の説
であるから正しいはずだ、と予見をもって、たしかめたにちがいない。
だが“寒月先生”のヴァイオリン演奏など、猫の“吾輩”も耳をふさぐ
ほどのもので、とても参考にすべき水準ではない。
右手の運弓がモノをいうのは、左手の運指が完成されて以後である。
→ 落第生は二度眠る 〜 寒月の右手 〜 20021018-1020 改稿
弦を張って音を出すには、撥く・打つ・擦る三法がある。それぞれ、
ギター、ピアノ、ヴァイオリンに代表されるが、ヴァイオリン属だけが
馬のしっぽを張った、もうひとつの弦を用いる。
つまり、ふたつの弓をこすり合わせることになる。したがって、右手
の弓に松脂を塗るとき、キュッキュッと音がする。たぶん、この原理が
ヴァイオリン属に特有の使命を与えたにちがいない。
チェリストでいうと、カザルスの運指には思わずウーンとうなるよう
なものがある。どうしたら、こんなにも深々とした音程をとらえられる
のだろうか、と考えこんでしまう。のちのち、ロストロポーヴィッチの
を聴いたときには、フーッと吐息がでるような運弓だった。
(カザルスいわく「右手のしなやかさは、年をとってからも上達する」)
そもそも右手か左手か、などという問題は、彼らの演奏水準において
論じるべきもので、なみの演奏家には無用の議論なのである。まして、
アマチュアには、縁なき領域である。
そうはいっても、練習をつづけていれば、左右どちらかが瞬間的に、
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01月15日(水)
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