ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 図書室便り 〜 読後感想文コンクール 〜
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19541006
 
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 読後感想文コンクール入選発表

一 等  ヘルマン・ヘッセ郷愁        三A 内村 公義
二 等  宮沢賢治 銀河鉄道の夜       二A 和田 和代史
三 等  アレクサンドル・デュマ 三銃士   一A 井上 健次
選外佳作 トルストイ 生立ちの記       三D 木村 祥子
 ″   アンネ・フランク 光ほのかに    二C 清水 弘子
 ″   ジョルジュ・サンド 愛の妖精    二D 北川 禎三

 選定後記
 
 藤原・高島・仲原・児玉・松森各先生及び図書委員一同によって選定。
 入選者一等には千円、二等には五百円、三等には二百五十円の図書購入
券を副賞として贈呈す。
── 《図書室便り・第三号 19541006 同志社中学校図書委員会》
 
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 ヘルマン・ヘッセ 郷愁          3A 内村 公義
 
 自然は偉大なるものである。そしてうるわしいものである。
 自然は、あらゆる人に棄てられた孤独な者を慰め、はぐくむものなの
だ。そして、人間の到達し得ない偉大な力を持っているのである。その
力の蔭には偉大なるあるものがひそんでいるのだ。
「郷愁」を読むと、この様な何かいい知れない自然の力を感じるのであ
る。そして、それと同時に、もう一つのものを感じる。それは自然の如
く不滅のものなのである。愛、愛がそれである。愛は自然と共に不滅の
ものではなかろうか。人間の欲望は、此等の不滅のものに較べたら、ど
んなにか小さく、はかないものであろう。
「郷愁」は次の様な言葉で終っている。
「……この大作はことによったら、もう一度書き直し、書きつづけ、完
成する様な時が恵まれるかも知れない。その時こそ私の青春の憧憬が充
される時なのであり、私は詩人になれた、と云うことになるであろう。
 それは私にとっては村会議員や、石の堤防と同じくらい、或いはなお
それ以上の価値のあるものだったかも知れない。しかしながら、それは
あのほっそりした美しいレージ・ギルターナーから可哀想なポッピーに
至るまで、愛すべきあらゆる人々の像をひっくるめた、──あの私の生
涯の過去とはなったが、しかし不滅であるところのもの──に較べたら、
元より及ばぬものであったであろうが。」
「郷愁」は都会文明の中に生きる場所を求め、幻滅しか見出し得ずして、
自然の中に心の故郷を見出し、その自然を愛し、自然に溶け合った青年
の姿を画いている。この青年は自然を愛し、その愛から人間愛へ行く道
を見出そうとした。そしてその道を歩んだのである。それのみかこの道
は自然と共に、彼の生涯に於いて不滅のものとなったのである。
 私は更に次の様な事を感じる。自然の力の蔭にひそんでいるもの、そ
れは神ではなかろうか。いや、神なのである。神の愛なのだ。
 自然の力、そして愛、何か力強いものを感じるのだ。そして美わしい
ものを感じるのだ。
 私は秋空や、或いは冬の星空を眺めるのが好きだ。そこに神秘的な美
わしさを感じるのだ。そして、この「郷愁」を読むとそれと同じ感じが
するのだ。
 ヘッセは次の様な事を云っている。
 
  世界が戦争と不安に息詰ろうとも、
  方々で、
  だれにも見えないが、ひそかに、
  愛が燃えつヾけている。
 私は更につけ加えたい。
  そして自然は、我々を愛してくれる。
  その美と偉大さは、
  永久に変わることを知らない。        (芳賀 檀・訳)
 
── 読後感想文コンクール入選作(一等)
 
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── 芳賀 檀・訳《現代世界文学全集T/新潮社》
 高橋 健二・訳《郷愁》の引用は、「ポール先生さようなら」に重複。
 
── 引き出しには、私の大きな創作のはじめの部分がはいっている。
 「わが生涯の作品」ということができよう。それはあまりおおげさに

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10月06日(水)
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