ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 無人警察(1)
んかんをもつ高校生が精神的に傷つけられることとはまったく異質な問
題なのに、それらが混同されています。高校生は社会的経験に乏しく、
もっとも心の傷つきやすい年代です。ブラックユーモアも程度によりけ
りで、それを教室で教材として用いるときには慎重さが要求されること
は当然のことです。
第三に、この覚書からは、心を傷つけるのは仕方がないといっている
としか受け取れませんが、角川書店からの協会への回答書は傷つけるこ
とはないと言っています。角川書店の言い分と作者の見解とは明らかに
食い違っています。
私の高校生時代は、てんかんに関する誤った学説が教科書にも掲載さ
れていた時代でした。それを教室で聞き、傷ついた心で人生に悩み、自
分の将来にまで絶望しかけた私自身の苦い経験を、若い後輩たちがふた
たび繰り返すことがあってはならないのです。
四、筒井氏はまた、小説は書かれた時から、時代後れになる運命をもつ
ものであると述ベた上で、自分は他の作家のように、時代遅れになった
記述を書き換えることはしない。それは小説は時代の産物であり、歴史
の記録、歴史的証言でもあるからだ、と述べています。しかし、歴史的
記録としての小説であれば、資料館に保存されているだけでよいのであ
って、生きた時代に読まれるための小説とは別なものであります。小説
を時代に合わせて書き換えることは、歴史の書き換えではありません。
事実、この『無人警察』自身、角川文庫『にぎやかな未来』に収められ
ているものと、『国語I』の教科書に収録されたものとでは一〇〇カ所
近く、表現や表記上の訂正や修正がなされています。ほとんどが小さい
ところですが、それでも書き換えには違いありません。そして、小さい
ところだからこそ、筒井氏の哲学からは書き換える意味がわかりません
し、検定のためだとしたら、権力には弱く、障害者団体にはことさらに
肩肘を張って見せる筒井氏の文学論は、なんと色あせて見えることでし
ようか。
その他、筒井氏の覚書には問題にしたいところがないわけではありま
せんが、日本てんかん協会の「角川書店の回答書への反論」の中でも論
じられていることなので、ひとまずペンを置くことにいたします。
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注一、これは私の経験を述べているだけで、精神障害者を差別するもの
ではありません。私自身、現在、精神障害者団体の役員として、その運
動発展に微力ながら参加している人間であります。
注二、昭和六十二年〜平成三年の四年間に、なんらかの犯罪に関わった
とされ検挙されたてんかんをもつ人々は、六十九人に過ぎない。同時期
の検挙者総数が七九十万人であるから、一〇万分の一にもあたらない。
注三、総務庁編「交通安全白書」、警察庁「警察白書」
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高橋哲郎(一九三二年十二月十一日生まれ):中学の時てんかんの初
回の発作、以後約五十年をてんかんと共に生きて、現在、社団法人日本
てんかん協会会長 /龍谷大学理工学部教授、京都大学教育学部講師
(科学教育、授業科学)
著書/『講座、現代の高校教育3 教科と授業』(草木文化)
『教育の原理と展開』(あゆみ書房)
『教師のための科学史教育入門』(新生出版)
『授業技術講座2 授業を改善する』(ぎょうせい)
『子どもの発達と環境教育』(法政出版) その他、
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この文は、筒井康隆氏の「覚書」(噂の眞相・九月号掲載)に反論す
るために、同誌への掲載を求めて執筆されたものです。
社団法人日本てんかん協会機関誌「波」第17巻10号 1993年10月号
原文での下線は表示の制限のために本ページではイタリックで表示し
てあります。Last Updated Dec.8.98
── http://www.synapse.ne.jp/jepnet/KOKUGO/hanron2.html
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