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与太郎文庫
by 与太郎
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■ カメラマン 〜 男の中の男ども 〜
刈りにされ、群衆にさらされている女性の写真がある。彼女はドイツ兵
との間に生まれた赤子を抱いているのだ。彼女は言いようがないほど悲
しい顔をしているが、対照的に周囲の群衆はみな彼女を嘲笑している。
大衆というか、群衆というものの残酷さを感じるよ。
 
 スタインベックとともにソビエトを訪れたキャパの一連の写真も紹介
された。当時のソビエトの農村で微笑む女性や子供の写真。彼は、世界
のどこにでもいるような、屈託なく笑う気のいい中年女性を撮ることで、
鉄のカーテンの奥深くで、謎に満ちていた当時のソビエトの人々の姿を
伝えようとした。しかしその後、キャパはスタインベックともども合衆
国政府からコミュニストというレッテルを貼られることになる。
 
 マルク・リブーの撮った、アメリカ、ペンタゴン前でのベトナム反戦
デモに、銃剣を突きつける軍隊にたいして一輪の花をささげる少女。写
真の彼女はその後、ヒッピー生活をおくり、アルコールやドラッグに浸
りきった生活をしていたという。しかし、彼女には娘が誕生し、その成
長とともに彼女自身も次第に立ちなおった。2003年のイラク戦争の折に
は、「娘の将来のために」再び反戦デモに参加したという。
 
 ほかには、イラン革命で民衆に撲殺されたパフレヴィ前国王支持の女
性の写真や、ボスニアで民兵がムスリムの中年夫婦を射殺する場面を捉
えた写真など。惨い写真だが、それは20世紀を埋め尽くしている無数の
悲劇のほんの一瞬を切り取っているにすぎない。
 
「真実を伝えるためには、被写体にもっと近づかなければならない」と
いうのは、番組の冒頭でも紹介されたキャパの言葉だ。彼の残した写真
そのものが、彼の信条を物語っている。戦場で命を落とした彼は、やは
り真実に近づきすぎたのだろうか。
 被写体から遠ざかるほど、マクロな視点で全景を見ることができるか
もしれない。しかし、カメラマンもまた一人の人間であり、神の視点を
持っているわけではない。
 すでに我々は、湾岸戦争の映像によって、空から見た戦争が、ひどく
ゲームじみて見えることを知っている。さらに高空から見れば、無数の
戦争が起こっていることさえまったくわからない美しく青い惑星が見え
てくることだろう。しかし俺たち人間は血と肉でできた破れやすい袋。
それがその惑星の薄っぺらい地表に這いつくばって、なんとか生きてい
る。
 
 奇しくも同日、衛星第2放送で放送された「迷宮美術館」のなかで、
ピカソの「ゲルニカ」の製作過程が紹介され、こちらも興味深く見たけ
れど、「画家は目だけをもっているのではない」というピカソの言葉は
特に印象に残った。報道カメラマンとて、現実をフレームの中に切り取
るのはあくまでカメラマンの心眼。
 
 そういえば「ゲルニカ」も、キャパを一躍勇名にした「崩れ落ちる兵
士」も、同じスペイン内戦を扱ったものだったね。
 
「一瞬の戦後史 〜スチール写真が記録した世界の60年〜」は、火曜の
深夜、正確には6月8日水曜日の午前0時15分から再放送される。深夜だ
が、できるかぎり多くの人に見てほしいと思う。
 
Posted by Rough Tone on 2005.06.06 at 02:08 AM in 映
http://roughtone.air-nifty.com/passing_strangers/cat493895/
── 《永遠の一瞬 20050606 Passing Strangers〜Rough Tone〜》
 

06月05日(日)
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