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与太郎文庫
by 与太郎
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■ くたばれ!たかじん(1)
阿波 そう。だから、あんまりひどくてオーナーが断わりにくい場合
僕にも責任が生じる。後々にね。だから立ち会って、あんまり
ならその場で断固ことわる、本人だって傷つくだろう、後から
いろんな理由をつけてからじゃ。
徹子 ワタシもそう思うけど、それが業界の常識?
ざこば ほかに居らなんだんちゃう? たかじん以外に。
徹子 アラそうなの。師匠ごめんなさいね、阿波さんとばっかり話し
ちゃって。でもちょっと待って、とにかく採用は決まったの?
阿波 プロダクションの社長と取締役と、タレントの三人が、店の前
の路上で相談するわけだからね。決まるのは当然だ。
徹子 おかしいわね。でも阿波さんもタカジンさんを見て、彼ならば
いいと思ったのね。
阿波 困ったことになったと思った。断固ことわるほどではないが、
黒縁のメガネに学生服、ニコリともしない奴がヌーッと立って
いる。誰が彼をギターの弾き語りだと認識できるか。オーナー
はいいとしても、マネージャーはどう言うか。
徹子 なんて言ったの。
阿波 次の日にマネージャーが飛んできて「うちは、こういうタイプ
やないとあきまへん」といって尾崎紀世彦《また逢う日まで》
のジャケットを見せた。
ざこば 素人でもわかるがな、ムリや。
阿波 なにしろオープンの日も迫っている。しばらく使ってるうちに
出物があるかもしれん、となだめた。
ざこば ほんまに「あきまへん」いうたんかいな。
徹子 ざこばさんは、開店のときからのお客様だったの。
ざこば いやいや、わしはずっと後で、その店は知りまへん。
阿波 ざこばはん、実はそのころ店にきてるんや。
ざこば 知らんちゅうてんのに。まだ真打ちにもなっとらんし。
阿波 それが店にきてるんや。ただしドアからのぞいただけで帰って
しもた。
ざこば けったいなこというなぁ、知らんで。
阿波 朝丸時代に、南座に出たことありまっしゃろ。
ざこば そらま、ないことはないけど。
阿波 南座からまっすぐ家に帰りましたか。
ざこば あんた、けったいやなぁ。タカジンの知り合いてみんな変っと
るんか。酒の一杯や二杯、店の一軒や二軒、寄らいでか。
阿波 私が、トイレから席に戻る時に、ドアからのぞいてる男がいた
んや。一目でチョーマルや思うた。
ざこば その、のぞいてたんがワシかいな。へぇ、そんなことしたか。
ほいで入らなんだやろ。
阿波 三つ揃いの背広で、目が小さかった。
ざこば ほんまかいな。南座の前の電車道わたって、真向かいの店か。
阿波 一杯飲み屋はあったけど、当時ハイカラなつくりの店は、一軒
だけや。それがホリデーバーガーや。中でタカジンが皿を洗う
か、ギター弾いとった。ボクはまあ常連客やった。
ざこば アノほなら、ちっちゃい店ちゃうか。中見えんように仕切りの
ある。一軒だけか?
阿波 そや、「朝丸、一杯飲ましたろか?」いうたら入ってきたか?
ざこば 「おおけに」そやけど、あんたエラソウにいう人やな。
阿波 機嫌のええ証拠や。その日は機嫌わるかったのか、フトコロが
きつかったか「やめとこ」思うて、にらみつけたら、スゴスゴ
帰っていったがな。芸人がのぞくたんびに一杯飲ましてたら、
なんぼツケでももたん。
ざこば あんた若いくせに、ちょくちょく芸人におごってたんか。
阿波 メンセツに合格したらな。このとき師匠とタカジンが出会うて
たら、両人の運命やいかに。
ざこば そうかなあ、ワシは一応落語で、あんたみたいな物好きに声を
かけられたかもしれんけど、タカジンはまだ売れるもなにも。
阿波 この話にはつづきがある。その前か後か忘れたけど、こんどは
南座に出たべっぴんの女優が、この店に入ってきたんや。誰ぞ
待ち合わせてたか、ふられるんやね。
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06月06日(木)
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