ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
[1059747hit]

■ APPEARANCE 〜 みせかけとすりかえ 〜
という疑惑は、返還1カ月半前の72年3月、社会党の横路孝弘氏(現民
主党副代表)が国会で極秘電文を示して追及し、佐藤政権は窮地に立た
された。
 
 佐藤首相はその夏の退陣が確実になっていて不機嫌がちだったが、花
道を飾るはずの復帰実現にドロを塗られた心境だったろう。
 
「疑惑追及を潰すしかない。それには国民の批判の矛先を転じることだ」
 
 政府がこんな画策をしても不思議ではない。極秘電文にある回覧印と
書き込みから、毎日新聞政治部にいた西山太吉記者が、外務省の女性事
務官から入手したことを突き止めた。西山記者にはひそかに警視庁の捜
査員が張り付き、尾行を続けていたのだ。
 
 国民全体を欺いたウソは裁かれない
 
 そして1週間後、2人を警視庁が国家公務員法違反容疑で逮捕した。
起訴状には、「密かに情を通じ、これを利用し秘密文書を持ち出させた」
とあった。ちなみに、起訴状は東京地検検事だった佐藤道夫・現参院議
員が書いたものだ。
 
 記者逮捕の事態に野党や世論は当初、「佐藤内閣による国民の知る権
利への弾圧」という空気だったが、政府の思惑通りに男女関係に関心が
向き始め、密約そのものは十分追及されなかった。公判でも、外務省ア
メリカ局長は極秘電報の内容について「知りません。覚えていません」
を連発した。女性事務官は1審で有罪、西山元記者も最高裁で有罪が確
定した。密約の存在と是非は問われぬまま、極めて形式的判断に終わっ
た。
 
 このほど米国から、当時の日米の交渉担当者が密約として扱っていた
ことを示す文書が見つかったことで、西山氏は28年ぶりに真実が実証さ
れたという思いのようだ。と同時に、「けんか両成敗にしてもらいたい」
と語る。
 
「あの事件は、国家公務員法という法律の名を借りて、私の倫理問題が
裁かれたようなものだった。確かに取材に関して非難されることがあっ
たのは事実です。しかし、国もウソをついていた。一大臣や局長の偽証
にとどまらない。国民を代表する国会に承認を求めた返還協定自体に虚
偽があるわけだから、国民全体を欺いたと言われても弁解できないじゃ
ないですか」
 
 話しているうちに、語気が荒くなる。
 
 事件の責任をとって退社した後、西山氏は郷里九州に戻って父の代か
らの青果販売業を営んでいたが、現在は自ら所有するビルの管理と、ボ
ランティア活動で日々を過ごす。ただ68歳の今も、新聞記事には丹念に
目を通す。
 
 米国から今回の文書が出たことも残念がる。
 
「米国もたいした国だ。軍事機密には厳しいが、外交機密は年限が来れ
ばオープンにするんですから。それに引き換え日本は……」
 
 この文書が公開されても、外務省は「密約はなかった」となお、密約
の存在を否定しているのだ。
 
 外交・安保論争が熱気を帯びた時代の国会を知っているだけに、西山
氏は今の論戦には歯がゆさを覚えるらしい。
 
「今の国会議員は非常に不勉強。ガイドライン(日米防衛指針)の審議
なんて、重要なことを何も議論していない」
 
 その衆院議員を入れ替える総選挙が13日に公示される。
www.mainichi.co.jp/life/family/ syuppan/sunday/00/0618/hunter1.html
── 《 20000618 サンデー毎日》
 

05月15日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る