ID:85567
Kenの日記
by Ken
[99134hit]

■アルゲリッヒ・バレンボイムのドュオ
昨日の日曜日の深夜(正確には月曜日の午前0時から)に録音しておいたBSプレミアムクラシカル音楽番組「アルゲリッチ・バレンボイムのピアノリサイタル」を聴きました。このリサイタルは今年4月にベルリンのフィルハーモニーホールで収録されたもので、既にCDも発売になっているようです。演奏曲目は以下の3曲でした。

モーツァルト:2台のピアノのためのソナタニ長調 K.448
シューベルト:創作主題による8つの変奏曲変イ長調 D.813
ストラヴィンスキー:春の祭典
演奏:マルタ・アルゲリッヒ、ダニエル・バレンボイム

演奏はバレンボイムが3曲とも高音部パート(右側)を受け持ち、アルゲリッヒは低音部(左側)でした。曲目によって入れ替わっても面白いと思ったのですが、バレンボイムがリードしアルゲリッヒが「無愛想」に着いて行くといった感じで進んでいったと思います。アルゲリッヒが1941年生まれ、バレンボイムが1942年生まれと言いますから二人とも70歳になっています。「ドュプレ」が生きていればもうすぐ70歳です。更に調べてみたら「ポリーニ」が1942年生まれ、「パールマン」がドュプレと同じ1945年生まれ。ピアノ・ヴァイオリン演奏者ではこの年代生まれ優秀な音楽家が若い頃から随分長く活躍していることに改めて気づいた次第です。

バレンボイムのピアノでは昔放送されたベートーベンピアノソナタ集を録画して随分聞きました。モーツアルトやベートーベンのような「音の粒揃い」が求められる音楽は得意のように思えました。決して指は長くないのですが「コロコロ」と器用に小回りが利きそうな手をしています。肘を少し伸ばして「腕全体の重さ」でフォルテを出す場面が多々あり、少し無理をしているような印象を受けます。アルゲリッヒは見事な「手」をしています。指の先端は細いのですが関節の盛り上がった長い指で古典派からロマン派・現代音楽何でもバリバリ弾き熟すいった感じの手をしています。2曲目のシューベルトは連弾でひとつのピアノを二人で引いたのですが、二人の演奏スタイルの違いで少しギコチナイ印象を受けました。バレンボイムは左手が両者にとって窮屈そうでした。

前半のモーツァルト、シューベルトの2曲では二人の巨匠の演奏にしては迫力がこの程度かしらと思ってみていました。同じようなパッセージを順番に二人が弾く場面が多くのですが、そういう場面では二人の音の違い・指回りの違いが見事に垣間見えてしまいます。妻は「プロはこのような演奏は嫌だろうね」と言っていましたが本当にその通りだと思いました。「指揮者バレンボイム」でなければ実現しない組み合わせで、アルゲリッヒの「多彩な音と粒立ちの素晴らしさ」が所々でバレンボイムを凌駕していました。ハスキルとリパッティが連弾を楽しんだという話が残っていますが、そのくらいの技量レベルで二人の演奏家が揃わないと惨めなことになりかねません。

しかしストラビンスキーが始まると「音」の興味は消え失せて、「春の祭典」の原始的な音楽、そして二人の名人の「ぶつかり合い」に圧倒されてしまいました。ここではさすがにオケを相手にするバレンボイムが見事なリードを見せたと思います。ファゴットとか弦楽器の強奏とかトランペットとかオケ版での音に慣れ親しんだ旋律をピアノでもそれに負けないくらい魅力的なニュアンスが伝わってきます。それにしてもこの難解な曲を息を合わせて完璧に引ききってしまう二人の名人芸には脱帽しました。途中で拍が合わなくなるのではないかしらという心配を他所に最後までとんでもない集中力で弾き切りました。とんでもない名演に接して興奮が暫く治まりませんでした。
11月17日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る