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Kenの日記
by Ken
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■二人の偉大な芸術家没
12月13日の新聞紙上に二つの芸術家の死亡記事が載りました。ひとつはシタール奏者のラビ・シャンカール、もう一人はソプラノ歌手のガリーナ・ヴィシネフスカヤのものです。

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ラビ・シャンカールはインドのバラナシ生まれのベンガリー(ベンガル人)でした。1920年生まれですから今年で92歳でした。ラビ・シャンカールがアメリカデビューを果たすのは1970年頃ですが、それは丁度「東パキスタン」がパキスタンから独立してバングラディッシュが成立する時代でした。

ヒンドゥー教の国インドとイスラム教の国パキスタンは独立当初から仲が悪かったのですが(これは宗主国イギリスの統治方法に由来していますが)、ベンガル地方(インドの西ベンガル州とバングラディシュ)は宗教よりも民族が優先する地域なのでした。さすがにパキスタンから独立してインドと一緒になることはありませんでしたが、ヒンドゥーとモスリムが共存する社会を作っています。

ノーベル文学賞を受賞したタゴールもベンガル人ですのでベンガル人からは偉大な芸術家が生まれているのです。インドに住んでいてもインド古典音楽を聴くチャンスは少なかったです。しかしCDショップにはラビ・シャンカールのCDが沢山並んでいたので何枚か購入しました。シタールで弾かれるインド古典音楽は独特で力強くそして悠久な感じがしました。現在のボリウッドのダンス音楽も長調なのか単調なのか判然としない独特の雰囲気を持っていますが、インド古典音楽は西洋音楽の枠に入りきらないものだと思いました。

ムンバイ室内オケの団員の経営するムンバイ市内の楽器屋さんで沢山のシタールを売っていて何度も買ってこようかと考えた末に購入を断念しました。というのはシタールが馬鹿でかい上に演奏法がかなり難しそうだったからです。購入して持ち帰っていたら狭いマンションでさぞ邪魔になっているだろうと言う当時の判断の正しかったことを痛感しています。

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ガリーナ・ヴィシネフスカヤは86歳だったそうです。言わずと知れたロシアの伝説的なソプラノ歌手。ホームページで記事を書いたことによって全く知らない方から感激のメールを頂いたことがあります。父君ロストロポーヴィッチ亡き後もオペラ学校を運営して音楽に身を捧げていました。正直言って訃報が伝えられるのはそれほど遠くないだろうと覚悟はしていました。

旧ソ連のスターリン独裁の恐怖政治下のソ連社会が生んだ世界的な芸術家のひとりでした。人間の幻術性の発露は、豊かで享楽的な土壌において育まれるのではなくむしろ貧しく過酷で苦しい境遇において発現するという仮説を立証するような人生でした。これは旧ソ連ばかりでなく旧東ドイツでも言えたことだと思います。音楽家でいうと、ショスターコーヴィッチ、ムラビンスキー、リヒテル、オイストラッフ、ロストロポーヴィッチ、ヴィシネフスカヤ等、体制に追従しないけれどロシアを愛した音楽家の人生は壮絶だったと思います。

ガリーナの録音・映像の多くは旧ソ連体制が可能な限り消し去ってしまっているため、現在ではかなり見つけることが困難です。それでも貴重な何枚化のCDを聞くにつけガリーナの非凡な才能と、特異は人間性を想像することが出来ます。

ガリーナは「エカテリーナ・イズマイロフ」などの映画に出演していますが、がリーナが音楽表現する場合、歌を歌うのは勿論なく、役を演ずるというよりは、もうひとつ踏み込んで人間を演ずるところまで徹底したのだと思います。「エカテリーナ」の彼女の演技は、演技ではなく自分そのもののような雰囲気を醸し出しているし、最期の川で死ぬ場面の力強さはどう表現したら良いかわかりません。高齢になってからは歌を歌うことは無かったようですが、20世紀の生き証人がまた一人減ってしまった喪失感は大きいです。
12月13日(木)
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