ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■徐々に奇妙な冒険。
夜、会社から帰ろうとしたら嫁からラインが。

「晩ご飯ないからどこかで食べてきてください」

とのこと。

「了解」

と返事をすると、

「へい」

「へい」

「へいよー」

「R」

とよく分からないメッセージがポンポン飛んできた。「R」とあるとおり、これは娘・R(中二)の仕業である。ラッパーかよ。何か用があるのかと思い

「なんだい?」

と聞いてみると

「なんでもない」

というつれない返事。なんだよ。パパ寂しいじゃないか。

で、電車の中で何を食べようかと考えていたところ、おおそうじゃ、ビリヤニを食べよう、ということになった。ビリヤニとはインドや中東、東南アジアなどで食べられているスパイシーな炊き込みご飯で、後を引く美味しさがある。

新大久保には「イスラム横丁」と呼ばれているエスニックなエリアがあって、以前その中の「ナスコフードコート」というお店でビリヤニを食べたことがあり、今日もそこを目指すことにした。

新宿で電車を降りた。そして新大久保まで歩いていくことにする。何故かというと、定期が新宿までしかないため、電車賃をケチっているからである。山手線のひと駅だからそんなに距離はないし、いろいろ賑やかなところなので歩いていても退屈しない。

青梅街道を渡り、歌舞伎町を北上し、健康プラザハイジアを過ぎ、裏手の大久保公園に差し掛かったところで足が止まった。

「放水始め!」

「よし!」

公園内で消防署員たちが消火栓の放水訓練をしていたのだ。署員のキビキビした動きやホースからぶっしゃあああと勢いよく飛び出す水のカッコよさにしばし見惚れていたら

「すいません」

かすかな女性の声が聞こえた。聞こえるか聞こえないかギリギリの大きさの声。

「はい?」

振り返ると横に50代ぐらいのおばさんが立っていた。しかし目を合わせようとしない。なんだこの人。

「呼びました?」

と確認すると2、3秒妙な沈黙を挟んで

「すいません、1時間ぐらいお時間ありますか?」

おばさん、ようやく喋ったと思ったら…。宗教かマルチ商法だろうか。

「なんでしょう?」

逃げる気になりつつも確認してみたら

「私、人妻デリヘルに登録してるんですけど全然指名なくてヒマなんで今から遊びませんか?」

「ええええ!?」

そういえばこの辺りは立ちんぼ(街娼)のメッカなのであった。イスラム横丁を目指してただけにメッカってやかましいわ。

「いやー、ちょっと…」

2、3歩後ずさりして再び新大久保を目指した。最初に声を掛けてきた時のよそよそしさは、あれは相手が私服警官じゃないかどうかを見定めるためだったのではないだろうか。

立ちんぼといえば、ここから更に北上すると百人町というところがあり、ここにも外国人立ちんぼのメッカがある。僕は寂れた盛り場や怪しい色街をうろつくのが大好きなので、せっかくだから…、と、そこを通過してみることにした。

職安通りを越えると百人町界隈。韓国系飲食店やラブホが面する細い道を進んで行くと、すごく背が高くてスタイルが良く、足をスラッと出した赤い服で金髪の女性が立っていた。僕に背を向けていたのだが、足音に気付き

「コンバンハ…」

と振り返った彼女の顔は、厚化粧で真っ白であった。す、鈴木その子。いや、もしかしてオカマさんかも、と内心ビビッて何も言えないまま通り過ぎた。

立ちんぼの人たちは中国系、東南アジア系、南米系等、全て外国人で、それぞれ路上にて適当な間隔を空けて立っていて、次は

「オニイサーン」

ロシア系の女性だろうか。駐車場の縁石に腰をかけている人に声をかけられた。昔はキレイだったんだろうけど、だいぶ生活疲れした感じだ。無視して通り過ぎると

「…シカト?」

と言われてしまった。ごめんね、とだけ返事した。

「コンバンワー」


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06月02日(金)
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