ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
[5183133hit]

■シブ楽器隊。
嫁が電子ピアノを買うというので付いて行った。

娘・R(9才)と息子・タク(7才)はピアノを習っているのだが、貧乏で長屋暮らしの我々には勿論本物のピアノなど買うカネも置く場所もないため、やっすいキーボードで練習させていた。

しかし本物とキーボードではタッチも音色も全然違うし、ピアノを上達させたいと思ったらやはり本物のピアノで練習するしかない。教わっている先生が言うにはRもタクも

「キーボードのクセがついちゃってますねー」

とのことで。確かにふたりともキーボードの軽いタッチで練習してるから、本物のピアノを弾いてみると蚊の泣くような音しか出ていないのだ。ただ別にプロを目指してるわけではないので

「じゃあ電子ピアノあたりを買うべ」

ということになった。

先生に紹介された、とある楽器店に向かう。

「先生があらかじめ私達が行くことを連絡してくれてるんだってさ」

「誰宛に行けばいいの?」

「カバみたいなおじさんだって。見りゃ一発で分かるって」

「わはは」

そんなカバ園長みたいな人がいるんかね…と思ったらホントに一発で分かってしまった。そのカバ…じゃなかった楽器店の方に挨拶してショールームの中に入れて貰う。ショールームと言っても建物自体は思いっきり倉庫で、薄暗い中、梱包されたピアノ達の横を歩いて行く。

「ここは配送センターでもありまして、ウチはピアノ専門の配送業者と提携しています」

と説明された。ピアノに混じって何故か「太鼓の達人」のゲーム筐体があった。

「なんですかあれは!」

「なんであるんですかね…」

知らないのかい。

ショールームは倉庫の中にあった。ジュウタンが敷かれた床の上にグランドピアノから僕らお目当ての電子ピアノまで。好きに弾いていいとのことなのでとりあえずRとタクには自由に弾け、と言っておいた。

ふたりは爆竹のようにあちこち飛び回って弾いていたが、

「どうせならコレでやってみなよ」

一番高そうな、数百万円の値札が付いたグランドピアノをやらせてみた。微妙に薄暗いところにあったので、ピアノは豪華絢爛と言うよりはなんとなく重圧的で、ちょっと夜の音楽室的な怖さもチラリとあり、そのせいかRとタクはすぐ違うところに飛んで行ってしまった。

そういえば、「恐怖新聞」というマンガで呪われたグランドビアノの話があったなあ…「展覧会の絵」を練習中に倒れて死んでしまった少女の霊がピアノに取り憑き、それ以来そのピアノで「展覧会の絵」を弾くと、鍵盤から血が出たり少女の霊に取り憑かれたり…きゃああああ!

僕も怖くなってきたので嫁の所に戻った。真面目に嫁と楽器店の方の説明を聞くことにする。嫁は話を聞きながら自分でもピロリロリンと弾いてみて

「あー、やっぱり音色が違いますねー」

などと言っていて、それを見た楽器店の方が

「奥様もピアノをやられているのですか」

「ええまあ、高校生まで少々」

などという会話をしていて羨ましい。ぼ、僕、エレクトーンを幼稚園の時にやってたっす!(誰も聞いてない)

しばらく嫁と品定めをしてどれにするかを決め、購入の手続きをひととおり済ませ、しばし楽器店の方と雑談。

「御社のみなさんもやはり経験者が多いのですか?」

と僕が聞いてみると

「ええ、大体そうですねえ。私は…バンドやってまして」

ニヤリと笑う。

「へー!」

「お客様は江古田にお住まいと聞いたんですが」

「はい」

「ライブハウスたくさんあるでしょう。そのどこかでたまにコッソリライブやってます」

「はああああスゴイですねえ」

休日はゴルフ、なんてのより格段にカッコイイじゃないか。ちなみに何の楽器をやっているのか聞いてみたら

「サックスを少々」

「ほあああナベサダみたいでかっこいいですねえ」

ちんこ切り落としちゃうヤツ…ってそれはアベサダ(阿部定)だ。僕もエレクトーンをやめないで続けていればよかったなあ。そんで「エレクトーンを少々」なんて言ってみたかったよ。

[5]続きを読む

03月15日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る