ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■親はなくても子は育っていた。
土曜日、嫁実家に行く。

既に昨日から泊まりに行っている娘・R(7才)と息子・タク(5才)を追いかけるのだ。手ぶらで行くのもアレなので、乗換駅の東中野の商店街でかきもちを買って行く。かきもち屋さんなのに合鍵作成もやっていて不思議なお店である。

中野で再び乗換え。小腹が空いたので立ち食いそばをすする。こんなクソ暑いのに熱いそばを食わなくてもいいのに、と我ながらと思うが、冷やし中華や冷麺といった冷たい食べ物はあまり食欲をそそらない。「冷やしたぬき」などを食わされるぐらいなら大汗かきながらでも鍋焼きうどんを食う。

そんな自分の好みを自問自答しながら券を買ってカウンター越しにオヤジからかき揚げそば(かきもちとかき揚げをかけたわけではない)を受け取ると、先客である「ヤンママの10年後」みたいなお母さんと5年生くらいの男の子も同じものをズルズルと食べていたので同志を得た気分になった。

母子は程なくして食べ終わり出て行ってしまったが、男の子だけ

「キップ忘れた!」

とすごい勢いで戻って来た。なるほど、その子がいたカウンターにキップが裏返しになって置かれていた。席が近くだったのに、気付いてやれなかったのがちょっと悔しかった。

駅に着くと嫁父が改札まで迎えに来てくれた。そして

「今、車の中にRとタクがいるんだけどさ、『おじいちゃんの友達が来るんだ。挨拶できるかなー?』ってウソついてるから」

とイタズラっぽく笑った。どうやら僕はサプライズ扱いらしい。じゃあそーっと気付かれないように顔でも隠して行きますか…と駅を出たら、車の窓からニコニコしながらこちらを見ていたRに速攻で見付かってしまい

「パパが来た!おじいちゃんの友達ってパパだったの?」

嫁父の謀略は2秒で台無しになってしまった。ふたりとも元気のようであったが、タクが車の中で

「ミジュマルクルミルダルマッカー♪」

ポケモンの歌を歌い出すのである。この歌はポケモンの名前が数珠繋ぎになっていて、端から聞いていると落語の「寿限無」みたいな感じである。僕もポケモンが始まりたてのころはアニメを見ていたが、その頃とは比べ物にならないくらい種類が増えてるし、初期のアニメの頃も

「ランランラン言えるかな、ポケモンの名前〜♪」

というポケモンの名前を羅列した似たような歌があったが、タクが歌っているのはそれとは違う!しかしうちではポケモンのテレビは見ていない。嫁実家にいるうちに一体何が…。と思ったら

「○○(嫁弟)が、ネットで見せたんだよね」

それで急激に覚えてしまったようだ。

「ミジュマルクルミルダルマッカー♪ダブランマメパトエンブオーゾロアーク♪」

何度も何度も早口で繰り返すタク。よくもまあ噛まずに言えるもんだと呆れるが、この長さは最早「寿限無」の比ではない。こんだけ早口でまくし立てられるとお経のようにも聞こえる。

「ギアル・ギギアル・ギギギアルー♪」

なんて歌っているところは

「ぎゃーていぎゃーていはらぎゃーてい」

に似ている気がしてくるから不思議である。それはそれとして、とにかくうるさい。気が狂いそうになるので

「頼むからやめてくれー!」

と歌うのをやめさせようとするのだが、酉年生まれの鳥頭なのでものの1分でまた始まってしまうのである。

嫁父は、

「こんなやかましいのはウチの家系にはいない!」

すべて僕のDNAのせいにしてしまった。九官鳥とかオウムの遺伝子が入ってるのかもしれない。

僕や嫁がいない嫁実家で寂しい思いをしていたかな?とちょろっと心配したが全然そういう気配はなく、嫁実家に着くと、風呂場に

「ここはおんせんです」

「土日やってます」

「月火水木金やってません」

などとRとタクの字でベタベタ貼り紙されており、縦横無尽に好き勝手やってたようであった。そしてタクは相変わらず壊れたラジカセのように

「ミジュマルクルミルダルマッカー♪」

延々とループしており、

「ああああ、うるさい!」

ポケモンと言うよりとんだトボケモンである。


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07月03日(日)
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