ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■僕に踏まれた町と僕が踏まれた町。
子供達を公園で遊ばせていた。
今日の公園はいつも行くところとは違い、以前住んでいた街に近い。以前住んでいた、とは言っても徒歩20分ぐらいの近さなのだが。
たまたま娘・R(7才)と同じクラスの友達がいたために超盛り上がってしまい、僕は腹が減ってしょうがないのに
「君達、お腹空かないか?」
「全然平気ー!ぎゃははははは!」
Rも息子・タク(5才)も空腹より遊びたい気持ちが最優先であり、元気に走り回っている。
「嫁、お前も腹減ったろう…」
お友達母と井戸端会議していた嫁にヘルプを求めたら
「空いたに決まってるでしょ。もう1時半よ!こんなに遅くなっちゃったら家でゴハン作る気にはなれないわあ〜」
「そこのコンビニで買ってきてここで食べてもいいわ〜」
「そうよねえ〜」
母たちは昼飯を作りたくない、ということは良く分かった。ただし、コンビニ飯とか勘弁してくれよ…と思い、
「じゃああそこ食いに行こうぜ」
以前住んでいた街の、時々行っていた洋食屋。当時は独身で一人で食いに行ったことが多かったが嫁とも行ったことがある。
「あら、久しぶり。いいね」
嫁もオッケーしたのでそういうことになった。以前住んでいた街の、懐かしい駅前商店街。ところどころ変わったところを嫁と記憶を辿りながら間違い探しのようにチェックする。しかしその洋食屋は変わらぬままであった。こぢんまりした店内に入ると
「狭いじゃん!」
早速タクがひとことぶちかまし冷や汗が出そうになる。こぢんまりと言え!
ここに来るのは何年ぶりぐらいだろうか。10年は経っていないが5年以上は来ていないだろう。調理するご夫婦はさすがに老けた感じがするが、それはお互い様。僕は数ヶ月にいっぺんぐらいの頻度の客だったため、僕のことなど覚えてないだろうなあ…と、普通にメニューを眺めていたら、調理をしていたおやじさんがふと手を止め、僕の顔を眺め
「…独身の頃から来てくれてましたよね?」
と声をかけてくれたではないか。
「え。まさか覚えてくれているとは思いませんでした」
「いやー覚えてますよー。もうこんな大きなお子さんがいるんだなあって思って」
そんなやりとりをRとタクは目をクリクリさせながら観察している。
「君達が生まれる前にこのお店に来てたんだよ」
「そうなのか!」
ふたりは不思議なものを見るような目で改めて店内をキョロキョロし始めた。おやじさんは、
「15年ぶりに来てくれたっていうお客さんの顔も覚えてましたよ。その人、昔はこの街に住んでて、今は大阪らしいんだけど、コッチ来る用事があったから食べに来てくれて…。そういう人って必ず前に住んでいたところも見に行くんだよね」
「ははは、僕もそうです」
ちょうど僕らもそうしようと思っていたところだった。気さくなおやじさんとおかみさんに話しかけてもらってあの頃の記憶が蘇り。
「あの時の匂いまでもたぐり寄せられるような…」
一層懐かしい気持ちになりを味わえた。料理ももちろんおいしく味わえた。
で、帰り道。この店から歩いて5分ぐらいのところにある、以前嫁が住んでいたアパートへ。独身時代、僕も嫁もこの街にそれぞれひとり暮らしをしていたのだ。
「あっれー。どこだっけ?」
なんと僕より嫁の方が道を忘れていた。散々夜這いを仕掛けた僕の方がちゃんと覚えている。
「ここだろう」
とアパートの前に来ても
「…こんなんだったっけ。ああ、確かにそうだわ」
いまいちピンと来ていない様子で、外観を見てようやく思い出した、という感じであった。そして嫁が住んでいた部屋は
「あの出窓がある角部屋だったよね」
と指差して説明したら
「えー。角部屋だっけー?もいっこ隣だった気がするよ」
「うそつけ。僕あの出窓から隣の家の火事見た記憶あるもん!寝てたらお前に『火事だ!』って叩き起されて…ちょうどベッドのすぐ横が出窓だったはずだ!」
「いえ、あの火事の時はベランダから見てたのよ!」
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04月26日(火)
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