ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■君は、ピアノに登って、音楽
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娘・R(6才)のピアノの発表会があった。
とは言っても僕が関われることは殆どない。ピアノ教室に付き添ったこともないし家で練習するRに指導したこともない。ていうか出来ない。全てピアノ経験者の嫁でないとダメである。
僕もはるか昔、幼稚園の時エレクトーンをやっていて、確かに楽譜を見ながら結構な数の曲を弾いていたはずなのだが面白いくらい全く何も覚えていない。へ長調とか何それレベル。こんなんではRに何も教えることは出来ない。
ただ僕に出来ることは遊んでいるRに
「練習やんなさい」
と言うことだけである。ついでにウサギ小屋かつデラシネの我が家は、当然ピアノを置ける広さなんかなく、キーボードで練習しているというしょぼい環境。
発表会の前日も練習していたのだが「ピン」とか「キョン」とか、明らかな不協和音が混ざる。
「大丈夫なんかおい」
と嫁にヒソヒソ話すが、もう逃げも隠れも出来ないし。翌朝朝イチで更に練習をさせたけれどもノーミスで完走できるかどうか危うい感じ。
「Rちゃん、上手に弾けそうかい?」
なんか心配になって聞いてしまったら
「Rちゃんねえ、音楽好きだから自信があるんだよ!」
おおっ。なんという根拠のない自信!まあビビリまくりよりは何倍もマシであろう。そんなわけで後は野となれ山となれ、Rはドレスに着替えて会場に向かった。
会場はわりと大きめのホール。客席に座りながらステージを見下ろす。あんなところでRは出来るのだろうか。
「Rちゃん緊張してるかい?」
「きんちょうってなに?」
「ドキドキすることだよ」
「んー。あんまりしてない」
「おおっ頼もしい」
一見度胸があるように思えるが、Rはいつも頭の中がお花畑なので、何も考えてないだけなような気がした。
そうこうしている内に嫁がRを楽屋に連れて行ったりしてスタンバイ。そして開演。プログラムを見るとRは4番目である。まず1番目の子の演奏が始まった。
…超うまい!うわー、R、大丈夫なんか…とかなり焦った。しかし次の子はRと一緒に習っている男の子。彼が間違えまくり。焦って更に同じミスをして曲がループ…といったテンパった内容になってしまい、彼には悪いけれどもハードルが下がった気がして安心してしまった。
その子の演奏が終わり、次が3番目だからRはその次だな…と思っていたら
「3番目の子はお休みです。次はRさん」
「えええーっ!」
聞いてねーYO!慌ててカメラの準備をする僕と嫁をよそにRがスタスタと舞台の袖から現われた。

ぺこんとお辞儀をし、

早速座って演奏を始める。本当に緊張してないようだ。Rが本気でダメな時は指を舐めまくる癖がある。それが出ていないということは大丈夫のようである。
これはノーミスでクリア(ビートマニアかよ)いけるか…と思ったが、さすがにそこまではムリで、ま、何度かとちってはいたけれども終わりまで弾いてまたぺこりと挨拶して退場して行った。
僕はもうこれだけで大満足である。普段
「パパとトイレ行く〜」
なんて言っている甘えん坊が、ひとりでステージに立ち、おじぎして、間違えつつとはいえ曲を最後まで弾き、終わったら拍手を浴びながらお辞儀をしてスッと退場していく…。
こんな大舞台の立ち回りが出来るなんて…あまりに感激してなんかおしっこもれそうであった。
「よく頑張ったな。よく緊張しなかったな。堂々としてたよ。あと可愛かったよ」
戻って来てからいくら褒めても褒め足りなかった。しかし嫁は悔しそうに言う。
「最初の子上手かったでしょ。あの子、Rと一緒に習ってる子なのよ」
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07月13日(火)
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