ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■嫁誕。
「ちょっとあれは恥ずかしいかもしれない…」
嫁は顔を赤らめた。そして
「まさかウチもアレ頼んでないよね」
僕を睨むので
「ごめん、頼んじゃった」
「えー!」
「サプライズで頼んじゃったんだよう。しょうがないじゃないかよう」
やむを得ず白状せざるを得なかった。はじめにこのお店に電話をした時はそばに嫁がいたので予約のみしかしなかったが、後でこっそり誕生日オプションのデザートプレートを頼んだのであった。チョコレートソースで皿に「Happy Birthday ママ」と書いて下さい、とかお願いしちゃったのである。嫁は苦笑いしながら
「ウチにはいつごろやって来るの」
と聞く。
「『デザートを食べ始めるかな?ってタイミングでお持ちします!』って店員さんが言ってたからそろそろかも…」
カウンターにいる店員さんをチラリと見たところ、バッチリ目が合ってしまった。林先生ばりのドヤ顔だった。すなわち「今でしょ!」。そんなわけで
「お誕生日おめでとうございまーす!」
ついにうちのテーブルにも店員さんふたりがデザートプレートを運んで来た。かわいいケーキに花火が二本パチパチ光っていて、お皿には僕がお願いしたとおりのチョコ文字。
「よろしければ、私たちでお誕生日のお祝いの歌を歌いたいと思います!」
店員さん達ノリノリ。鈴まで持っている。
「いやー、私は歌は…」
と照れる嫁だったが
「僕らの周りの席ほぼ全部もそうだったからいいじゃないか。みんなハピバだよ」
ということで歌ってもらった。嫁は照れ臭そうだったが、後でケーキの写真や、ケーキを囲んだみんなの写真を撮ったり
「これおいしいね」
と、そこはかとなく嬉しそうだったので、多分しないよりした方が良かったのだと思いたい。
「こちら、プレゼントでございます」
更に店員さんから渡されたのは、東京ドームシティアトラクションズの乗り物券であった。1回ぶんだけだけど。
「思い残し、食い残しはないか~」
食べ放題も終盤戦、お腹の限界も近づきそろそろ終わりにしようか、という頃に
「ハッピーバースデートゥーユー♪」
上品そうな老夫婦のテーブルのところでも誕生日のお祝いがされていた。奥さんが嬉しそうに
「81才になるんですよ」
と告げていて、店員さんも僕らもびっくり。とてもそんな風には見えない若々しさだったからである。
「いやーそうなんですよーあははは」
旦那さんは照れ臭そうにワイングラスを揺らしていた。僕らもあんな風になれるのだろうか。そんなことを考えながらレストランを後にした。
外に出て夜空を見上げると東京ドームシティアトラクションズのジェットコースターが
「げひょおおおおおおおお」
乗客の悲鳴と共に突っ走っていて、また、観覧車も大きな輪を光らせていた。
「せっかくだから乗るか」
嫁がさっきもらった乗り物券を取り出すと
「うーん、ジェットコースターも好きだけど、今はそんな気分じゃない」
今はそんな気分じゃないとか、夜のお誘いを断る常套句のようなことを言うタク。確かにジェットコースターに乗ったら食べたものが全部外に出てローリングマーライオンになりそうではある。
「じゃあ観覧車でみんなまったりしよう」
嫁以外のチケットを買おうとすると…結構チケット代が高くて鼻血が出そうになった。3人分合計額は、レストランのタクの分(子供料金)の倍。でももう後へは引けない。誕生日だしみみっちいことを言ってはならぬ。観覧車に4人、ひとつのゴンドラに乗るなんてもうないかもしれないし。
みんな乗りこんでワクワク窓を眺める。だんだん地面を離れて行く風景にキャアキャアする嫁子供達を見ながら僕もそっと遠くの方を眺めてみる。

「スカイツリーだ!」
「ホントだ!」
「東京タワーは!」
「見えない!ホテルの後ろかな」
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06月16日(金)
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