ID:79475
やさぐれ日記・跡地
by アルティーナ
[77072hit]
■オイテイカナイデ
17時を回っていたが、小さな店内でも8割方お客で埋まっていた。
私は残り1つになった2人がけの椅子の片方に座って、帽子をとった。
同い年くらいの女の子がメニューと水を持ってきてくれる。
他に店員は居ないのかな、とカウンターに目をやるとマスターらしき人がティーカップをとっているところだった。
私は思わず笑いそうになって、メニューを見るフリをして下を向いた。
だってマスターらしき人は縁付きのメガネをしていて、顔の下半分は白髪混じりのヒゲを生やしていて、微妙にマッチしていないエプロンを着ていたから。
あんまり「らしくて」可笑しい。
横で大人しそうにマスター?の手伝いをしてたのは奥さんらしき人で、これもまた「らしくて」もうどうしようかと思った。
さておき。
どうやら店員(?)はこの3人だけらしい。
とりあえずメニューに目をやると、喫茶店らしくケーキだけではなく軽食も振る舞っているようだ。
そういえば今日は何も口にしていない。
ちらっと「サンドイッチ」の文字が見えたけど、・・・見なかったことにしてお目当てのケーキのページに集中した。
日替わりでオススメのケーキも変わるらしい。
今日の場合は「レアチーズケーキ」で、旬のフルーツを横にたくさん添えてある写真が貼ってあった。
視線を滑らせると、フルーツをふんだんに盛り込んだババロアだとか、素朴だけれど不思議と目をひくバウンドケーキの写真があったりして、どれにしようか本当に迷う。
1枚だけ仲間はずれのように差し込まれたメニューには、どうやら新作ケーキが載っているらしい。
「砂糖を使わずハチミツを加えて焼き上げたシフォンケーキに、甘い苺のコンポートを添えて」
と説明書きされたそのケーキの写真を見て、コレだ!と思った。
他にも試したいケーキはあったけれど、何よりもまず、コレ。
一目惚れの如く紅茶とセットで注文した。
待つ間、読みかけの小説を取り出しながら改めて店内を見回してみた。
カウンターの奥の棚には、物凄く値打ちモノなんじゃないかと思えるような緻密で上品なデザインのティーカップが所狭しと並べられている。
しかも驚いたことに、よく見ると似てはいても同じカップは2つとないようで、各々の客の前に置かれたカップを見比べても、微妙にデザインの違うカップが違和感なく場に溶け込んでいた。
凄いな、と力が抜ける。
なのに笑えるのが、年代モノのピンク色の大きな電話が置いてあったり、それが5段式のシルバーラックの上に置かれてたり、その下にはイマドキの女性誌が並べてあったりして、何だかミスマッチだ。
かと思いきや、手入れの行き届いた観葉植物が窓際で伸び伸びと葉をのばしていたり。
円錐状や試験管の形をした花瓶の中には、バランス良く貝殻や青や透明の石が飾られていたりした。
1つ1つを見れば凄くバランスがとれている。
でも、何かと何かを見比べれば酷くアンバランス。
それでいて、全体を見渡せば不思議と落ち着くのは何故だろう。
とても安心できる心地よい空間だ。
人間が相反する事象に惹かれるのを裏打ちしているかのようなこのお店は、つまり私には最適な場所で、きっとこれからも必要なんじゃないかと思えた。
程なくしてケーキと紅茶が運ばれてきた。
ケーキの盛られたお皿も、なみなみと注がれた紅茶の揺れるカップと受け皿も、とても素敵なデザインがプリントされていた。
紅茶の方は、緑を基調としたどちらかと言えば「可愛らしい」の表現が似合うデザイン。
ケーキの方は、花を散らして様々な色でもって上品に塗られたデザイン。
つまるところ、両方並べると微妙にアンバランス。
でも、片方ずつならなんてグッドバランス。
無性に嬉しくなる。
[5]続きを読む
07月05日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る