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やさぐれ日記・跡地
by アルティーナ
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■オイテイカナイデ
教室の扉を開けると────────なんて、涼しい。
・・・でも誰もいなくて寒々しかった。



いつも学校が閉まるまで練習や雑談をしているメンバーも、今日は皆早く帰ってしまったらしい。
出しっぱなしの教科書や教則本、自分も昔使用していたピアノの曲集などがあったけれど、やっぱり誰かが残っている気配はなかった。


誰も居ないのなら用事を済ますことも出来ない、と1つ溜息をついて自分の席に荷物を置いた。
机の上には私が休んでいる間に配布されたプリントが何枚か乗せてあって、親切にも誰かが私の分をとっておいてくれたらしい。



その誰かに感謝しながら、でもプリントはそのままにして
教室の隅にあるピアノの黒くて艶めいたフタに手をかけた。

自分が普段使っているバッハの平均律曲集や、ソナタアルバムは持って来ていなかったから、誰もが基礎練習に用いるハノンを近くの机から拝借する。


(借りるね、T君)



曲番を囲むように書かれた「よく出来ました」を示す二重丸が微笑ましい。
意識して肩の力を抜いてから、ブレスレットとビーズで作られた指輪を外して、30分だけ弾こうと決める。



(ピアノを弾くのは何日ぶりだろう)


ピアノのレッスンを暫く休んでいたのは、ほとんど練習をしていなかったから。
ついでに先生に合わせる顔がないだけではなく、あのいちいち気に障る先生と接していると、言ってはいけない言葉を吐きそうだったから。

そしてそれを抑える自信がなかったから。



(弱い、な)



1番、2番────
5本の指に均一に力を込めながら、ほとんど楽譜に目を走らせず弾いてゆく。



(脆い、し)



3番、4番────
黒光りしたピアノ本体に映り込んだ自分を一瞬見て、すぐに手元に目を移した。



(無理をしなければ、良いのだけど)






結局8番まで弾いたが、集中できないわ指の動きは最悪だわでハノンを弾くのはやめた。

それからうろ覚えのバッハのインヴェンションを2,3曲弾いて、最近まで練習しテストでも弾いたモーツァルトのクソ長いソナタを流す程度に弾いて、フタを閉じた。


帰ったらちゃんと練習しなきゃ────するんだろうか。



横に置いておいたアクセサリと携帯をとってから、教室に備え付けられた冷暖房(2カ所)の電源を切って帰ることにした。
いち、に、さん、と面倒くさそうに階段を何段も何段も下りて下駄箱に着くと、基本科の男の子が事務室で何か揉めていた。

何度か挨拶してきたことがあったっけな、程度に思って自分はさっさとサンダルを履いて学校を後にする。




(何のために学校に来たのかわからない、けど、このまま帰るのも嫌だなぁ・・・)


バーゲンセールにはとっくに行ったし、欲しい本も特にない。
美味しいラーメンが食べたかったけれど、この近くのはどれもハズレばかり。

家に向かって歩きながら考えちょうど先程の駅の改札あたりに差し掛かったところで、閃いた。





(あぁ!今こそケーキを食べる時ぢゃん?!)



45度方向転換して北口を直進する。
スクランブル交差点を通過して少し歩いた所で左折。
細い路地を進むと、右手に目的のお店が見えた。


家の近くで美味しいお店を発掘したい、と常々思っていたからネットなどでいろんなジャンルのお店を調べまくっていたのに。
今までどうにも時間がなかったと言うか、タイミング合わずで叶わなかった。
あるいは友人も誘って来るべきかと思っていたせいもあって。



1人で小洒落た喫茶店に入る事に大して抵抗はない。
もっと早く来れば良かった。





古めかしい焦げ茶色の店内は、外見と同じく・・・いやそれ以上に小洒落たセンスの良い家具で統一されていた。

6人がけの椅子とテーブルもあれば、2人がけのそれもあって、勿論カウンター席もある。

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07月05日(月)
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