ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■それが、ウルトラマンの「スペシウム光線」なのだ。
『ウルトラマンになった男』(古谷敏著・小学館)より。

(「ウルトラマンの中の人」だった、俳優・古谷敏さんが撮影当時のことを振り返って書かれた本の一部です)

【もう一つのポーズの話をしよう。ウルトラマンの最も有名なポーズとなり、日本中の子どもたちがまねをしたあのポーズも、初めてやった時は特に意識したわけではなかった。だから最初に演じたときも飯島監督に何気なくこう聞いた。
「この型は今回だけですか?」
 でも、僕の予想に反して監督はこう答えた。
「いや、ウルトラマンが敵と戦って相手を倒す、最大の武器にしたい、そして毎回使いたい」
 このスペシウム光線のポーズを決めるのも、とても大変だった。ウルトラマンに入ってすぐのことで、僕は苦しくてしょうがなかった。必殺の光線をどんなポーズで撃つのか? 撮影の合間に監督の指示でいろいろなポーズを試してみた。
 一度型ができると、そのたびに高野カメラマン、中野稔さん、そして飯島監督が話し合う。僕は仮面をつけたまま待っている。この時が苦しいのだ。三人のやりとりを見ていると、監督が膝をついたり、頭を曲げたり、身ぶり、手ぶりで話し合っているが、仮面をつけているので声が聞こえない。話がすむとまた同じようなポーズを指示される。それを見ながら、また三人で話し合う。これが何度も繰り返される。我慢できなくなって仮面をとってもらう。ぬいぐるみは一人では脱げない。汗がすごい。流れ出る感じで目に入ってくる。何か対策を考えないといけないな、などと思いながら待っている。

 飯島監督が言った。
「古谷くん、水平の手は防御、垂直の手は攻撃だよ」
 高野さんが言う。
「ビンちゃん、腰を少し落として構えるといいよ。立てた手が顔にかぶらないようにね。カラータイマーも隠さないようにしてね」
 中野さんが、
「古谷ちゃん、水平の手、垂直の手、組んだら絶対に動かさないでね。垂直の手から光線を出すから」
 中野さんは、光学合成の技師で、円谷プロに古くからいる人だ。
「中野さん、何秒くらい動かさなければいいんですか?」
「それは監督しだいだね」
 わかりましたと答え、またぬいぐるみをつける。今言われたことを考えながら、ポーズをつけた。

 三人からやっとオーケーが出たころには、僕はヘトヘトに疲れていた。
 僕にこの仕事ができるのかな? またそんなことを思った。でもインスタント写真を見ると、なかなかいいポーズだった。ウルトラマンの必殺技にするからね、と監督に言われた。
 このポーズをしっかり会得したい。その日から毎日練習するようになった。一日の撮影が終わって、どんなに疲れていても家に帰って三面鏡に向かって一日三百回、毎日練習するようにした。三面鏡は演技の勉強のために、東宝で初めてもらったギャラで渋谷の家具店で買ったものだ。このポーズはシンプルで簡単なように見えるけど、なかなか納得がいく型を作れないのだ。曲がっていたり、指先まで力が入っていなかったり、垂直の手が斜めになっていたり、結構、むずかしい。
 でも、何回も練習した。歩きながら振り向きざまに撃ったり、倒れながら撃ってみたり、大きく構えたり、早く構えたり、遅くやったり、前後の動きを頭に入れながら練習を重ねる。ワンクール過ぎたころから、納得のいくアクションができるようになった。

 公園でも、居酒屋でも。
 子供でも、大人でも。
 誰でも、どこでも、すぐにできる、やさしいシンプルなポーズ。
 それがウルトラマンの「スペシウム光線」なのだ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この本を読んで、「初代ウルトラマン」を演じていた男の喜びと苦悩をあらためて知りました。僕はリアルタイムで「ウルトラマン」を観ていた世代ではないのですが、再放送で観るウルトラマンは、当たり前のことですが、いつも同じ表情で、淡々と怪獣と戦い続けていたんですよね。

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01月31日(日)
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