ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■タモリに「アイツは、『いい人』じゃなくて、『いい人だと思われたい人』なんだよ」と言われた男
『Switch』VOL.27 NO.7 JUL.2009(SWITCH PUBLISHING)の「LONG INTERVIEW〜鶴瓶になった男の物語」より。取材・文は川口美保さん。

【実家の裏手に回った鶴瓶の姿を見かけたのか、誰かが声をかけた。
「マーちゃん! 帰って来たんか?」
「姉ちゃん、懐かしいなあ! 元気か?」
 鶴瓶の間髪おかない声を聞いて、女は嬉しそうに言った。
「もう偉うなってしまって、口も利かれへんと思ってたわ!」
 隣の姉ちゃんだった。一回りは年上だろうその人を前にすると、鶴瓶はすぐ昔に戻った。家族の話、近所の人の話、二人の会話からは次々に懐かしい人の名前が飛び出す。
 姉ちゃんが息せき切るように言った。
「マーちゃんのお母さんはべっぴんさんやった。ここに来はったとき二十八か九だったと思うわ。スタイル良くて背も高かった。子供もぼちぼちできていったやろ。私な、子供のとき、あんなお母ちゃんだったらええなあて、なんぼ思たかわからへん」
「そうよなあ。うちのおかん、綺麗かったよなあ」
 鶴瓶が嬉しそうにうなずく。
「うちのおかんは、納棺師でな。今でいうおくりびとしてた」
「ほんまに親切な人やった。汚のうが何しようが、骨惜しみしない人だった。自分からいろいろやってくれてな、だからみんなに好かれてはったわ」
「嬉しいなあ。何年ぶりにおかんのこと聞いたか……」
 姉ちゃんが提案した。
「真田幸村の跡地、見に行くか?」
 その敷地内の大きな木は、子供の頃、彼らのもってこいの遊び道具だった。
「枝と枝の間にゴムつけてな、近所の子を引っ掛けて飛ばしてた。人間パチンコや」
 鶴瓶はかつての遊び場を記憶を辿るように歩いた。歩けば人が集まってくる。途中、鶴瓶の姿に気づいたおじさんが、子供時代の鶴瓶が写った写真を慌てて家から持ってきて、「覚えてるか?」と話しかけてきた。鶴瓶の姿を見つけるといろんな人が挨拶をする。小さな子供が鶴瓶の顔を見て、「ツルベだ! ツルベだ!」と指を差す。この日、一緒に写真を撮ってと求められた数は十人を下らない。サインも求められれば、鶴瓶は相手の名前を書き記す。
「俺に話しかけるとき、みんなちょっと笑てはるやろ。山田洋次さんが『いいよなあ、鶴瓶さんは。寄ってきたら、みんな笑ってる』って言ってた。俺、それ、望んでたんやもん。若いときから。自然にしてるというよりも、目指さないとできない。子供が『ツルベ!』って言ってくれるのは、『ツルベ!』って言ってもらおうと思ってやってることなの。だから自然じゃないよね。だけど、そうやってることが三十八年続くと、もう自然なの。だからよう言うの。俺、ホンマにどんな性格かもわからんようになってもうたって」
 彼は笑った。
「つまり、嘘か本当かわからん。嘘も本当になってるということやろうね。でもそれが正解なんよ。人間って、もうね、五十過ぎたらどれが実体かわからんことで出来上がっている。人に対してイヤな人やなって思われてさえなければ、すべてそれが正解なんよ。その人は頑張ってるの」】

〜〜〜〜〜〜〜

 ちょうど1ヵ月くらい前、「笑っていいとも・増刊号」を観ていたら、映画『ディア・ドクター』の地方ロケで地元の人たちにサインしまくっていたという鶴瓶さんのことを、タモリさんが「アイツは『いい人』じゃなくて、『いい人だと思われたい人』なんだよなあ」とからかい半分に評していたのが印象的だったのです。ロケ地の各家庭には、鶴瓶さんのサインが一家に2〜3枚くらいはある、とか、映画の他の出演者のサインを鶴瓶さんに頼む人までいた、というような話まで紹介されていました。

 タモリさんが「いい人」じゃなくて、「いい人だと思われたい人」と言ったのは、鶴瓶さんが裏表のある人間だと言っているのではなくて、「いい人じゃないといけない、と努力し続けている人だということなのだろうなあ、と、このインタビューを読んでわかったような気がします。

 僕はテレビの画面にいる鶴瓶さんを観て、「ああ、いい人なんだなあ」と思いながらも、「結局そういうのって、持って生まれた性格というか、才能みたいなものだよな、僕みたいな社交性のないタイプには、ああいう生き方はできない」と感じていました。

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08月02日(日)
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