ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■昭和天皇のサンドイッチ
『昭和天皇のお食事』(渡辺誠著・文春文庫)より。

(宮内庁大膳課の和食担当として大膳厨房係に26年間勤めた著者の「昭和天皇のサンドイッチ」の思い出)

【そうそう、サンドイッチのサイズで思い出したことがあります。後に美智子皇后から、もう少しサイズを小さくしてほしいというご要望がありました。お客様とお話をしているときに、口の中に食べ物を入れてお話をするわけにはいかないので、うんと小さくすればさりげなく食べることができるということで、それまでの九つ切りから十二切りにしました。しかし、これにはかなりのテクニックを必要としました。切りづらいため、つい力が入りパンの表面に指のあとがついたりしたら、作り直しということになります。
 大膳のサンドイッチへのこだわりは、当然ことながら箱に詰めたときの美しさにもあります。
 切り口を見せずに真平らになるよう、切り口が横を向くように詰め込みます。表面がデコボコになってはいけない。切られていない一枚の白いパンがそこにあるように見せなければいけないといった具合です。
 ということは、サンドイッチの中身によって厚さがそれぞれ違いますから、それを全部調整するわけです。例えば、ジャムを他の具と同じ厚さに挟むと甘すぎることになるますから、パンの厚みで調整します。
 そして、大高檀紙の紙箱に、隙間がないように、きれいに詰めます。この箱から取り分けるのが主膳の役目ですが、新人がこのサンドイッチを初めて見たときは、パンとパンの境目がわからないように、あまりにびっしりときれいに入っているので「本当に切れているんでしょうか」と聞くのが定番の質問でした。
 このサンドイッチで、昭和天皇をますます敬愛することになったエピソードがあります。大膳にはいりたての若い頃の話です。先輩がサンドイッチを作り、私はそのサンドイッチを持って初めて陛下のお供をして那須の山をほかの皆さんと歩きました。
 主膳さんが侍従に「そろそろお時間でございます」と伝え、侍従が陛下に「そろそろお時間でございます。いかがでございましょう」と申し上げると、陛下は「じゃあお昼にしようか」というようなことをおっしゃいます。そこで私たちはすぐにテーブルを出してセッティングします。旅先のことですから、ごくごく簡単なテーブルです。
 そのときに、生まれて初めて陛下のもとにサンドイッチをお持ちしました。本来は主膳さんがするべきことですが、主膳さんはテーブル・セッティングをしていて、旅先ということもあり、「渡辺さん、あなた自分で持っていきなさい」と言われ、そのときは私が主膳さんのかわりに、女官さんのもとへ運びました。
 おそばで女官さんとのやりとりをうかがっていると、陛下は、「イチゴジャムを」とおっしゃいました。
「他にはいかがでしょうか」
「イチゴジャム」
 とまたおっしゃる。
 生まれて初めて陛下のおそばにいたので、私はブルブル震えるぐらい大変に緊張していましたが、そういう雰囲気の中でも、陛下はジャムだけをとおっしゃるので、陛下はイチゴジャムがよほどお気にいりなのだと思った記憶があります。
 そうして、イチゴジャムのサンドイッチを三切れほど、陛下のお皿にお箸でお取りしたら、「あとは、皆に」とおっしゃるのです。残ったものを皆で分けるようにというのではありません。陛下はまだお食事の前です。私は聞き間違いかと思い、きょとんとしていたら、女官さんから「皆さんに回してあげてください」と指示がありました。
 サンドイッチの箱には結構な数が入っているとはいえ、随員が三十人ぐらいいるわけですから、一切れずつ分けたら、陛下が召し上がる分がなくなってしまうわけです。
 職員には弁当の用意があることは、陛下はよくご存じのはずです。しかし、女官さんからの申しつけですから、私はそのサンドイッチを皆さんにお持ちし、一切れずつお取りいただきました。そして、「皆さんにお取りいただきました」と女官さんに伝えました。
 女官さんが陛下に「みんなの手元にいったようです」といった意味あいのことをお伝えになったのではないでしょうか。「あ、そう」というお声が聞こえました。

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04月10日(金)
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