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活字中毒R。
by じっぽ
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■水木しげる先生と「心霊写真」
『CONTINUE Vol.38』(太田出版)の「『墓場鬼太郎』大特集」の京極夏彦さんへのインタビュー記事より。インタビュアーは、おーちようこさんです。
【京極夏彦:ちなみに水木(しげる)さんが貸本まんが家としてデビューする1年前に柳田國男が『妖怪談義』という本を出しています。でもこの本に載る妖怪は、僕らが知る妖怪とはちょっと違う。水木先生はそれを絵にし、キャラクターにした。そして鬼太郎の『週刊少年マガジン』連載にあたって、江戸時代の化け物絵なんかと併せて作品に登場させたわけです。それを大伴昌司さんなんかが、怪獣と対比させる形でどんどん世に出した。そしてようやくいまでいう妖怪が誕生した。つまり『墓場鬼太郎』の時点では、妖怪概念は確立されていないんです。だいたい、鬼太郎って妖怪じゃなくて、地球の先住民族である幽霊族なんですよね。彼らは人間に逐われて地下で暮らしていたという設定ですね。それを見間違えたものが幽霊だと、初っぱなに説明される。第1話の段階でオカルト全否定なわけですよ(笑)。さらにいうと、鬼太郎って脳波でコントロールするリモコン下駄とか体内電気とか、髪の毛針とか指鉄砲とか、体内毒素で作った毒饅頭とか、すべて物理攻撃で敵を倒すでしょう。殴る、壊す、爆発させるとか。ご祈祷とかお札を貼るとか、そういうのではない。保護色で姿を消すとか、妖気定着装置で怪気象を定着させるとか、大海獣はゼオクロノドンだし……実は鬼太郎はハードSFの申し子でもあるんです!
インタビュアー:それはすごい分析です!
京極:いや、当時はもちろんハードSFなんて概念はないわけだけど(笑)、貸本時代の『墓場鬼太郎』って、だから「怪奇まんが」なんですyと。いまでこそ別に耳新しくもない言葉ですが、当時は「怪奇小説」という言葉だってできたばっかりだったわけで。江戸川乱歩は探偵小説の父として知られますが、彼はいまでいう海外の幻想小説を紹介した人でもあるわけです。最初は「西洋怪談」なんて呼び方をしていて、まあ『四谷怪談』なんかと区別するために「怪奇小説」というジャンル名を編み出した。水木先生は大変な勉強家でもあるわけで、そうした娯楽のニューモードをどんどん作品に取り入れられたわけです。水木先生はラヴクラフトを引用したり、翻案したりしています。誰もラブクラフトなんて知らないような時代にです。鬼太郎もその影響下にある。水木先生のオソロシイところは、そうした新しいネタを、「懐かしく」料理しちゃうところなんです。柳田國男だってその「懐かしさ」の材料にすぎない。妖怪だってそうです。箱は古びて見えるけど、中身は常に最先端なわけですよ。そういう意味で、この『墓場鬼太郎』は妖怪概念黎明期の傑作まんがと位置づけることもできるし、かつ日本の怪奇まんがの先駆けとしても位置づけられる。アニメをご覧になった方は、是非原作も読んでほしいですね。
インタビュアー:すごい! 世界が一気に広がります。同時に見えないものへの是非も言及しているのかな、と。
京極:僕は、妖怪を全力で推進する立場におりますが、同時にオカルト的なことについては全力で否定したいという立場なんですね。
インタビュアー:存じております。
京極:そんなヤツがなぜ妖怪を推進しとるのかと。でも、それはまったく矛盾していないわけです。水木先生は、ともすればオカルトの人のように思われがちですし、目に見えないものの存在について熱く語られることも多いんですが、実は水木先生に心霊写真なんかをお見せすると「目に見えないものが写真なんかに写るか!」とおっしゃる(笑)。まさにその通りです。目に見えないものを信じる、感じるということと、オカルトとは全然違う。水木先生いわく、もし、目に見えないものを見ようとするならバカみたいに無理矢理見るしかないと(笑)。で、見えないから絵に描くんだと。絵に描いて見えるようにしてるんじゃないかと。それが水木先生のまんがなんです。だから、実はあれこそが唯一無二の本物(笑)。それ故に、われらは推し進められるんです。】
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そうか、『鬼太郎』は、「ハードSF」だったのか!
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03月02日(日)
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