ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「駅から徒歩60分の住宅地を売る」ための、2つの広告コピー
『広告コピーってこう書くんだ!読本』(谷山雅計著・宣伝会議)より。

(新潮文庫の「Yonda?」や「日テレ営業中」などの名コピーの生みの親、コピーライターの谷山雅計さんが「広告コピーを書くための技術」を詳説された本の一部です)

【コピーというのは、基本的には人を納得させるための表現です。けれども、それにもかかわらず、世の中のコピーには、単にカタチだけの納得に終わっているコピーと、ホントウの納得につながっているコピーの2種類があると思うんです。
 まだぼくが新人の頃、博報堂のクリエイティブ研修で、「駅から徒歩60分の住宅地を売るコピー」という課題を出されたことがありました。
 歩けば2時間かかる距離で駅が2つある。そのちょうど真ん中、つまりどちらの駅から歩いても60分かかる場所にある住宅地を売るのは、どういうコピーがいいのか、という話です。
 そのとき、そこで「たとえばこういうコピーが、いいコピーです」という例が2つあげられていました。
 ひとつは、「よく来たな。実感、いい友。」みたいなコピー。つまり、「こういうところまで来てくれるのが、本当の友だちだ」というニュアンスのもの。
 でも、それが「いい例だ」と言われても、ぼくはいまひとつ納得できなかった。
 たしかに駅から徒歩60分もかかるところにわざわざ足を運んでくれるのは、いい友だちです。それはウソではないでしょう。しかし、そのことを確認するために、誰が真実の友かと見きわめるために、住宅地を買おうと思うことはありえないでしょう。
 ”友だち”を語る言葉としては納得できるのですが、住宅地を売るためのコピーとしては「?」ではないかと、感じたわけです。
 そしてもうひとつの”いいコピー例”は、「駅から徒歩60分の場所に、駅ができないわけはありません」というものでした。
 たしかに駅から徒歩15分のところなら、少しぐらい人が増えようとも、わざわざ新しい駅をつくろうとは思わないかもしれません。けれど、60分もかかるところに人が集まりはじめたら、鉄道会社も駅をつくろうとするでしょう、という視点。
 これも無理があるといえば、無理があるコピーです。まだあるわけではない駅を想定して、モノを売ろうとしているわけですから。
 でもぼくは、このコピーの視点は、「家を買おう、宅地を買おう」という気持ちにつながっていると感じました。
 言ってみれば、ひとつめのコピーは、カタチのうえで納得しているように書いているだけだと思います。「宅地を買おう」という実際の動機づけにはなっていないわけですから。
 それに対して、2つめは、ちょっと論理の飛躍があったとしても、ホントウの意味でも納得をうながしています。
 コピーライターに求められるのは、もちろん、ひとつめではなく、2つめのコピーだとぼくは思います。
 ただ、このことは実際の広告の世界でも、ちょっとあいまいになっていて、両方が同じように評価されてしまっていることもあります。】

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 この「駅から徒歩60分の住宅地を売るためのコピー」の話は、僕にとっては非常に印象深いものでした。
 僕はコピーライターではありませんが、もし同じような課題を与えられたら、おそらく前者の「よく来たな。実感、いい友。」みたいなコピーを書こうとしていたと思います。もちろん、こんなにシンプルにうまく書けはしないでしょうが、それでも、こういう傾向のもの、誰かに「上手いね」って言ってもらえそうなものを書こうとしたはずです。
 「駅から徒歩60分の場所に、駅ができないわけはありません」というコピーって、前者に比べたら、たしかに一捻りしてあって、面白い発想だな、とは思いますが、なんとなく言葉のインパクトや「面白さ」が足りないような気がしますし。
 
 でも、人気コピーライターとして活躍されている谷川さんのそれぞれのコピーについての解説を読んで、僕は「なるほどなあ」と感心すると同時に、ちょっと恥ずかしくなったりもしたのです。
「ああ、僕はいつも、凝った言い回しやインパクトのある表現で、自分のことをアピールしようとするばかりで、伝えるべき相手の顔が見えていなかったのだなあ」と。

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10月25日(木)
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