ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「僕が人の話を聞く時に、絶対にやらないようにしていることが一つあります」
『経験を盗め〜文化を楽しむ編』(糸井重里著・中公文庫)より。
(「おしゃべり革命を起こそう」というテーマの糸井重里さんと御厨貴さん(オーラル・ヒストリー(口述記録)の研究者・東京大学教授)、阿川佐和子さんの鼎談の一部です)
【御厨貴:僕が10年来経験を重ねてみてわかったのは、聞く時には「自然体」が一番いいということです。こっちが「聞くぞ」と意気込んでると、向こうもなんとなく「答えないぞ!」みたいに構えますから。
阿川佐和子:力を抜く?
御厨:最初から自分は何でも知っているという姿勢で臨むのではなく、知らない、よくわからない、だから聞きたいというスタンスですね。
阿川:ニコニコなさる?
御厨:いえいえ、それはあまりやると向こうが嫌がるからしない。現場に行って、先に来ちゃったから、部屋でボケッと座っているような感じです。
糸井重里:あっ、その「ボケッと座ってる」という言い方、すでに好感持っちゃうな。
阿川:以前、城山三郎さんにインタビューした時、城山さん、まさに先に座って、ボケッとしていらしたの。「申し訳ございません。お待たせして」と言うと、「いやいや、前の仕事が早く終わってね」とニコニコ。その後ですよ、聞き手なのに、私が2時間しゃべりまくってしまったのは。最初のたたずまいから始まって、何聞いても「おたくは?」なんて具合だから、「聞いてください!」とばかりに私がガーッとしゃべる。終始、「どうして?」「それから?」「いいねぇ、おかしいねぇ」くらいしかおっしゃらないんだけど、これこそが究極の聞き上手だと思いました。
糸井:「ボケッと座っている」ことの中には、多くのことが入っているんですね。
阿川:つまり、「あなたを受け入れるよ」という態勢ですよね。
御厨:自然体という表現でいいのか、あまり「図らなく」なってから、僕は前ほど疲れなくなりました。
阿川:自然体も大事なんだけど相槌も大事じゃないですか。知り合いの男性編集者は、「あー、そうスかぁ」というのが癖らしくて、「ごめん。原稿が遅れそう」と言うと、「あー、そうスかぁ」。申し訳ないから「この間、ケガしちゃって」と説明しても、「あー、そうスかぁ」……何だか寂しくなってきちゃって、「それは癖?」と私が聞いたら、「何がですか?」と言うんで、「『あー、そうスかぁ』っていつも言うじゃない」「あー、そうスかぁ」と答えるの(笑)。逆に相槌のうまい人は、相手を話しやすくさせますね。
御厨:相槌でも、「なるほどね」というのは賛否両論あります。相手が精いっぱい話している時に「なるほど」と相槌が入ると、「あ、そうですか。じゃあ次は?」と急かされているような気になる。非常に苦労した話をしている相手に、「なるほど」と簡単に言ってしまうと、「おまえにわかんねえだろうが」と思われたりね。
(中略)
阿川:自分がしゃべる側に立った時、「この人は誠意を持って、本当に私の話を面白がって聞いてくれる人なのか」というのは、ちょっとしゃべればわかりますね。自分に対して、愛情を持ってくれていることを感じるというか。
御厨:その思いやりにも通じますが、僕が話を聞く時に、絶対にやらないようにしていることが一つあります。それは相手の話をまとめないこと。相手は一所懸命にしゃべろうとしているけど、言いたい内容にふさわしい言葉がなかなか出てこなくて、ああでもないこうでもないと話が行きつ戻りつしている。それを、利口な人はまとめようとするんですね。
「要するに、あなたの言いたいことはこれでしょう」と。
糸井:ヤですねえ。
御厨:これをやられると、話し手はがっかりする。「まあ、君がそう言ってるんだから、そうだろ」と納得のいかないまま、話を終わらせることもある。とにかく僕は、相手が言い終わるまでずーっと聞くようにしています。
糸井:相手のペースに自分を委ねる――それができれば、誰でもが聞き上手になれると僕も思いますね。
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08月28日(火)
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