ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「『患者さま』と呼びましょう」により、病院の中で起こったいくつかの変化
この「患者さま」たちはたぶん主観的には「日本の医療を改善する」ことに貢献しているつもりでいるのです(完全には信じていないにしても、半信半疑程度には)。そして、その確信を支えているのはメディアが「消費者モデル」の有効性を声高に賛美しているからです。万人が消費者として容赦なくふるまうとき、市場は最高の状態に向かってまっしぐらに進化してゆく。このイデオロギーはもともと行政が主導したものですけれど、メディアはこのイデオロギーの普及に積極的に加担してきました。僕が知る限り、医療機関に対して仮借ない批判を向けることによってのみ医療の質は改善され医療技術の水準は向上するという信憑をメディアは一度も手放したことがありません。
さすがに医療崩壊がここまで進行すると、あまり「仮借ない」のもどうかな……というくらいの自制心は出てきたかもしれませんが、それでも自分たちが展開してきた医療批判が医療崩壊という現実を生み出した一因だということをメディアは認めない。】
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僕自身の感触としては、「患者さま」という呼びかたがすすめられるようになった時期と、病院で患者さんの暴言や問題行動が目立つようになった時期は「同じくらいの時期」という印象で、どちらが先なのかは、はっきりしないのですけど、それは、僕がずっと田舎の病院に勤めていたからなのかもしれません。
でも、ここで内田先生が指摘されているような「変化」は、医療の仕事をしている人間の多くが感じていることだと思います。
「できる限り医療行為に協力せず、にもかかわらず最高の医療効果を要求する患者」たとえば、「食事療法をするつもりがないのに、血糖値のコントロールが悪いのは医者の治療が悪いからだと主張する患者」「末期がんの状態で見つかったのに、治療ができないのは『医者の腕が悪い』からだと罵る患者」などは、僕が医者になった15年前くらいにもいたのですが、その数はどんどん増えてきているような気がします。
そして、急患治療中であることをアナウンスしているのに、外来で「どうして予約の時間に診ないんだ!」と看護師に詰め寄る人も少なくありません。
こういうのは「もし自分がいま、心臓マッサージを行われている患者だったら……」という想像力がはたらかないのだろうか?と思うのですが、「消費者的なふるまい」だとすると、なんとなく合点がいきます。
週刊誌やテレビなどで採り上げられている「病院の選びかた」なんて、「とにかくクレームをつけてみて、自分が優先的に診てもらえるようなら儲けもの」あるいは、「雑誌やネットで見た不確かな知識を、とにかくぶつけてみて反応をみてみましょう」という感じのものばかりですし。
この文章を読んで、ようやく納得できたのですが、要するに医療の世界に「市場原理主義」が導入されることによって、患者さんたちは、「交渉次第によって、もっといい医療が受けられるはず」という確信を持っているのでしょう。
家電量販店で値切ることによって、値引きやポイントがつけられるように、「病院とか医者というのは、100%の力を出さずに利益を享受し、無知な患者から利益を貪っている」。だから、「プレッシャーをかけることによって、顧客はより良いサービスを受けられるはず」。
実際は、そんなことはないんです。
たとえば病室の居心地のよさとか、病院食の味などについては、たしかに、まだまだ改善の余地はあると思いますが、治療に関しては、「いろんなコストの問題などもあるけれど、とにかくその患者さんにとってのベストを尽くす」しかありません。
「手抜き医療」のリスクを現場はよく知っていますし、そもそも、同じ人間として、「お金のために、助かるはずの人を、あえて助からないようにする」ようなことをやりたがる人が、いると思いますか?
過去には、そのような「必要ない手術をした病院」が摘発されたことがあるのも事実ですが……
僕は何人もの患者さんから、「患者さま」って、お客様扱いされるのは、かえって気味が悪い、という話を聞きました。よそよそしくて冷たい感じがする、とも。
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09月11日(土)
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