ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■書店のトイレに「引きこもる」人々
しばらくして「どうも出る気配がある」という連絡が入った。身体はおっとりがたなだが、頭はなんて言ったものやら、という状態で駆けつけた。ちょうどトイレから出てきた「彼女」と入り口で鉢合わせをした。「彼女」の向こう側で清掃員が指をさしてうなずいている。歳の頃は30代前半で、髪を肩までたらし、黒ぶちの眼鏡をかけたちょっと小太りの「彼女」であった。
頭がまとまらないまま、「すみません、トイレに長時間こもっていられると困るんですけれど」と直球で言ってしまった、かなりきつい調子だったと思う。「私じゃありません」と「彼女」は逃げの姿勢に入りながら答える。ここで逃げられたら、また来るかもしれない、と私は必死だ。いや「彼女」のほうがもっと必死だったようで、書棚の向こう側に逃げようとする。清掃員は盛んに指を指して「間違いない」というような合図を送る。「タバコを中で吸っているようですが」「だから、私じゃないです」と背中をみせながら「彼女」は怒鳴る。「こんどみつけたら、警察に行ってもらいます」と私もその背中に怒鳴る。
あっという間に「彼女」は去ってしまった。以来トイレは平穏に戻った。「彼女」はもっと気に入った「トイレ」を見つけたのだろうか。
今思い出しても明るい話題ではなかった、としみじみ思う。
今回のポスター騒ぎは「彼女」の再登場だろうか、という疑念がつきまとう。だが正体は突き止められないままになっている。とりあえずポスター効果があったのか、長時間の占領も止んでいる。
「彼女」の話を某大学出版の編集者にしたら、「ウチの大学では何人か常連さんがいるようですよ」と怖い答えが返ってきた。三年前に入社した社員に話したら、「私はアメリカに旅行したとき、マクドナルドのトイレに入ったら、個室に女の人がいて「ウェルカム」って言うんです。周りには生活用品が置いてあって、どうも住んでいるみたいで」こうなると個人の病というより、社会の病のようだ。
どうも「書店とトイレ」というよりトイレそのものに「魔」が住んでいるようだ。昔の人が「厠」の方角を気にしたというのもわけがあるに違いない。
最後にひとこと、トイレに携帯電話を落としたら、黙って帰らないで、すぐにお知らせください。】
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「ジュンク堂」池袋店の副店長であり、書店員として30年以上のキャリアを持つ田口さんが「書店員という仕事とそこで働く人々」について書かれた本の一部です。
僕もときどき「ジュンク堂」を利用するのですが、少なくとも僕が行く福岡店に関しては、「あのトイレに引きこもろうとは思わない」です。トイレそのものも、「個室」も狭いし、正直、あまり「清潔」でもありませんし。
「(書店として)売場面積日本一」のジュンク堂・池袋店には、福岡店よはもう少し広くて立派なトイレがあるのかもしれませんが、それでも、トイレというのは書店にとっては「無くては困るけれども、売り物になる場所ではない」でしょうから(むしろ、万引きの温床になりやすいそうですし)、少なくとも一般的には「すごく居心地のいい場所」ではないはずです。そもそも、「ジュンク堂」なら、座って本が読めるスペースがかなり広く設置されているはずですから、わざわざトイレに篭らなくても、という気がするのですが、この文章を読んでいると、こういう人は、この「彼女」だけではないようなんですよね。
「某大学には何人か常連さんがいる」そうですし、アメリカのマクドナルドには「住んでいる人」もいるのだとか。本屋であればトイレで本を読んで時間も潰せるでしょうが、マクドナルドのトイレで、どうやって生活しているのでしょうか?うーん、僕には想像もつきません。
僕もトイレで本を読むことはありますし、仕事に煮詰まったときに昼間に当直室に篭って本を読んでいて、外から清掃員さんにドアをノックされまくって気まずい思いをしたことがありますから(あれって、出てこい!って強く言われるほど出て行けないものなのです、本当に)、そういう「狭い空間に篭る快感」みたいなのはわからなくもないのです。それでも、トイレで食事をしようとまでは思わないけれど。
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10月25日(水)
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