ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「クレームをつける側」の憂鬱
もし、彼女が、怒り狂ったおっちゃんに待ち伏せされたり、いやがらせの電話攻撃を受けたり、突然怒鳴り込まれたとしても、タクシー会社はもう一切の責任など負わないであろう。
何故なら彼らは、おっちゃんをクビにすることで、今回のタクシートラブルの責任を全て取ったという形にしてしまうからだ。
それでは、そうなった場合、ミコちゃんは一体誰に守ってもらったらいいのだろう。
「やっぱり、もう警察しかないって思うんですけど、今の時点じゃあ、まだ待ち伏せされたわけでも何でもないですもんね。何をどう保護すんだよって言われちゃいますよね」
ミコちゃんは深い深い溜息をついた。
その溜息を聞きながら、私も大きな大きな溜息をついた。
お互いに黙りこくったまま、しばし時間が流れた。
「で……、どうする? 危険でも、さっきの怒りをこのままぶつけて、相手にあやまってもらうまでやる? それとも、脅える毎日はパスしたい?」
やがて、私の方がそう先に口を開いた。
「悔しいけれど、あんなことでひどい目に遭うかもって、毎日ビクビクすんのはもっと嫌……」
ミコちゃんは唇を噛みながらボソッと漏らした。
「OK、そんじゃあ、忘れ物の化粧品返してくれさえすればもういいって、先方に言うからね」
本当に悔しかったが、私は再びミコちゃんのお母さんの声に化けて、タクシー会社に電話を入れたのであった。】
〜〜〜〜〜〜〜
このエッセイはこれでおしまいで、その後の「後日談」についてはこの本の中には書かれていません。ほんと、これを読んだだけの僕でさえ、「なんて理不尽な話なんだ!」と憤ってしまうようなエピソードなのですけど、じゃあ、ミコさんはこの酷い運転手を徹底的に追い詰めるべきだったのか?と考えると、やっぱり、僕の身内や友人が当事者であれば、「悔しいけど、深入りしないほうが安全」だと判断すると思います。
こうしてエッセイに書かれているのを最初に読んだときには、「こんなふうに事なかれ主義に逃げてしまう人ばかりだから、なかなかマナーが良くならないし、他の人もこういう迷惑運転手の被害を被ってしまうんだよなあ」という憤りもあったのですが、こんなふうに、「相手があまりにも話が通じそうもない人」の場合には、かえってクレームってつけにくいですよね。
「クレームをつけることによって自分が得られるメリット」と「クレームをつけることによって予想されるデメリット」を比較すれば、多くの場合「デメリット」のほうが大きいのです。よっぽど高額のお金やモノでないかぎり、「クレームをつけて、相手と折衝する」という行為に見合っただけの「報酬」って、ほとんど得られないのですから。僕もいろんなことに腹を立てながら生きているものの、実際に「相手に知られるような形でクレームをつける」ことはほとんどありません。めんどくさいし、万が一「慰謝料」が10万円出たとしても、そこに辿り着くまでのお互いのやりとりを想像するだけで、うんざりしてしまうのです。そりゃあ、1億円もらえるのなら、やるかもしれませんけど、実際は、そんな慰謝料が発生するような事例なんて、ほとんどありえませんし。
こういうのって、気が弱そうで文句を言いやすそうなドライバーは些細なことでもクレームをつけられる一方で、このエピソードに出てくるような「ヤバイ人」は、「仕返しが怖いから」「もう顔も見たくないから」ということで、多少のことではクレームをつけられなかったりするのだろうなあ、と僕は思いました。
「やたらとクレームをつけまくる人」に対して、僕はあまり好印象を抱いてはいないのですが、彼らはものすごく「勇気がある人」なのかもしれませんね。
09月20日(水)
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