ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ、スペシャルズ
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ』
        “Das Verschwinden des Josef Mengele”
1974年フランス生まれのオリヴィエ・ゲーズが2017年に発表
した小説『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』を自ら脚色、1969年
ロシア生まれで2022年に西側に亡命したキリル・セレブレン
ニコフの脚本・監督で映画化した作品。
開幕はブラジルの大学で法医学教室の教壇に置かれた白骨。
それはヨーゼフ・メンゲレのものだと説明されるが、生徒の
多くは反応を示さない。しかしそこから物語はモサドの追及
を逃れて逃亡を続けたメンゲレの姿を描いて行く。
それはアルゼンチンに始まりパラグアイ、ブラジルへと転居
を繰り返すが、その間には短期間のドイツへの帰還やブラジ
ルへ来訪した息子との再会、さらにはアウシュヴィッツでの
栄光の日々の思い出なども再現される。
そしてその中に、メンゲレ自身によるアウシュヴィッツでの
行為への言及や信奉して止まないナチス思想への思いなども
鏤められる。それは正しくヨーゼフ・メンゲレの真の姿とも
言えるものだ。
出演は2025年9月紹介『ボンヘッファー』などのアウグスト
・ディールと、Netflix 作品などに出演しているブレット・
シュナイダー。他にベルリン/エルンスト・ブッシュ演劇大
学で教壇にも立っているというデヴィッド・ルランド。
また2013年9月紹介『ハンナ・アーレント』などのフリーデ
リケ・ベヒト。ルランドが教壇に立つ演劇大学出身のミルコ
・クライビッヒ、ダナ・ヘルフルト。さらにブダペスト演劇
映画大学出身のカーロイ・ハイデック。
そして2010年9月紹介『白いリボン』や2019年2月3日付題
名紹介『僕たちは希望という名の列車に乗った』などのブル
クハルト・クラウスナーらが脇を固めている。
メンゲレはモサドの追及を逃れ続け、最終的に捕縛されない
まま1979年に海水浴中の脳卒中で溺死。その遺骨はブラジル
政府が保管しており、映画開幕のシーンに繋がるが、遺骨は
1992年にDNA鑑定により本人と確認されたものだ。
そのメンゲレの生涯だが、作中には彼の語録とも言える発言
が次々に登場し、そのほとんどはナチス礼賛の文言で羅列さ
れる。しかしそこにアウシュヴィッツでの彼の行為が挿入さ
れ、それが正に反面教師と言えるものになっている。
実際に映画に中でアウシュヴィッツのシーンは極めて印象的
に描かれており、その映像と彼の発言との乖離が正しくナチ
スの許でメンゲレが行った悪魔的な行為とそれを全く反省し
ない恐ろしさを描き切っている。
この描き方こそが現政権を批判して迫害を受け亡命した監督
の真骨頂だろう。その主張は特に民主主義とされる国家の右
傾化が進む現代に見事な問いを投げ掛けており、今や全世界
に向けての警鐘になっている感じもするものだ。
そんなアウシュヴィッツに関る作品だが、本作では被害者=
ユダヤ人の図式は存在しない。もちろんユダヤ人も登場はす
るが、被害者の中心は身体的な障碍者であり、いわゆるマイ
ノリティだ。
実際にナチス政権下では同性愛者やロマなども迫害の対象と
なっており、本作ではそれらの人々の姿もしっかりと捉えて
いる。この点は従来のハリウッド映画と一線を画するものと
も言えそうだ。
そしてその映像は本編全体がモノクロームの中で鮮烈な色彩
を持って描かれるもので、それはその時代がメンゲレにとっ
て栄光の時だったと解釈もされるが、敢えてその悪行を鮮烈
に印象付ける効果も伴っている。

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01月18日(日)
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