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On the Production
by 井口健二
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■テルマ(運命は踊る、Workers、プーと大人になった僕、エンジェル、銃、カスリコ、スカイスクレイパー、クワイエット・プレイス)
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『テルマ』“Thelma”
2016年10月紹介『母の残像』に続く、ノルウェーの俊英ヨア
キム・トリアー監督による2017年の作品。本作は世界各地の
批評家協会で最優秀外国語映画賞に選ばれている。
物語の始まりは都会の大学。1人の女子学生が痙攣の発作で
倒れるが、医学的には何の疾患もないと診断される。しかし
彼女が倒れると同時に、キャンパスの上空を飛ぶ鳥の群れに
変調が生じていた。
それでも、最初は孤独だった彼女にも友達ができ、カフェや
ダンスに青春を謳歌するが、彼女は宗教上の理由で酒を口に
したことがないなどの生い立ちも判明する。そして彼女は、
診察した医師に両親に報告しないことを頼んでいた。
そんな彼女の両親は、田舎で開業医の父親と足が不自由で車
椅子生活の母親だったが。彼女の下宿を訪ねてきた両親は、
必要以上に彼女の行動を心配しているようにも見える。それ
でも彼女は気丈に振舞っていた。
ところが症状が繰り返し、MRI診断でも異常はなく、遂に
脳波計で精神的な負荷をかけた検査が行われることになる。
そしてその検査が佳境になった時、恐れていた事件が発生す
る。
出演は、2018年のベルリン国際映画祭でShooting Star賞を
受賞したエイリ・ハーボー。他にカヤ・ウィルキンス、ヘン
リク・ラファエルソン、2012年1月紹介『孤島の王』に出演
のエレン・ドリト・ピーターセンらが脇を固めている。
脚本は、ヨアキムと『母の残像』も手掛けたエスキル・フォ
クトの共同で執筆されている。因にフォクトは、2014年の脚
本監督作品『ブラインド 視線のエロス』でもピーターセン
とラファエルソンに夫婦を演じさせている。
学園が舞台であるなどの設定には、2013年10月にリメイク版
を紹介したスティーヴン・キング原作『キャリー』を思い出
させる。特に宗教によってそれを封じようとするなどの親側
の意向は、正に流れを踏襲しようとしているようだ。
しかしノルウェーの俊英たちはそこからの展開を全く別の方
向に向ける。それは科学的な検査の様子であったり、両親へ
の想いであったり。そして主人公自身の目覚めに向けての展
開が観客の心にも沁みるものになって行く。
それにしても、巻頭の描写が後で深い意味を持つなど、物語
の構成にも様々な趣向が凝らされており、それは巧みと言え
る作品だった。ヨアキム・トリアー×エスキル・フォクトの
コンビには、これからも期待を寄せるものだ。
公開は10月20日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA、ヒュー
マントラストシネマ有楽町他にて、全国順次ロードショウと
なる。
この週は他に
『運命は踊る』“Foxtrot/פוֹקְסטְרוֹט”
(運命の皮肉を描いたイスラエル映画。2017年のヴェネチア
国際映画祭で審査員賞など3冠を獲得した作品。中年夫婦の
許に息子の戦死報が届き、混乱した中で手続きが進む内、そ
れが誤報であったことが判明する。そして場面は砂漠の検問
所で、退屈な毎日を送る息子の姿に移るが…。脚本と監督は
2009年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞のサミュエル・
マオス。出演は前回題名紹介『嘘はフィクサーのはじまり』
などのリオル・アシュケナージと、2008年1月紹介『ジェリ
ーフィッシュ』などのサラ・アドラー。前半は戦死の報に取
り乱す夫婦の様子や、それらに対する軍関係者の対応などが
克明に綴られ、それは冷酷とも戯画化とも取れる。それが一
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08月12日(日)
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