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On the Production
by 井口健二
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■あやつり糸の世界、蜜のあわれ、砂上の法廷、桜の樹の下
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『あやつり糸の世界』“Welt am Draht”
1962年のHugo賞候補者であるアメリカのSF作家ダニエル・
F・ガロイが1964年に発表した“Simulacron-3”を、1978年
『マリア・ブラウンの結婚』でニュー・ジャーマン・シネマ
の旗手と呼ばれるようになるライナー・ヴェルナー・ファス
ビンダーが、それ以前の1973年に監督した作品。
物語の背景となるのは情報科学の研究所。そこでは大型のコ
ンピュータを用いたシミュレーション実験が行われていた。
それはコンピュータ内に独自に思考するようプログラムされ
た数千のキャラクターが行動する世界を構築し、そこに任意
の条件を与えることで未来予測を行う研究だった。
ところがその装置の完成間際に開発の中心にいた研究者が事
故で死亡、主人公はその後釜として開発を進めることになる
のだが…。そんな主人公に研究者の死は事故ではないとの噂
がもたらされ、さらにその情報源の人物が突然消失、しかも
その存在を誰も記憶していないという事態が生じる。
果たしてその研究の真の目的とは? そこに死亡した研究者
の娘や、政府の研究機関と私企業との癒着などの問題を錯綜
させながら物語は展開されて行く。
主演は、後にハリウッド映画に進出してサム・ペキンパー監
督の『戦争のはらわた』や、クリント・イーストウッド監督
の『ファイヤー・フォックス』などにも出演するクラウス・
レーヴィチュ。
共演は、フォトモデル出身で現在はアメリカ在住で翻訳者を
しているというマーシャ・ラベン。1980年代にはフレディ・
マーキュリーの恋人としてクィーンのPVなどにも出演した
バーバラ・ヴァレンティン。
さらに1965年ジャン=リュック・ゴダール監督の『アルファ
ビル』で主人公のレミー・コーションを演じたエディ・コン
スタンティーヌらが出演している。
同じ原作からは1999年にローランド・エメリッヒ製作による
『13F』という作品も作られているが、エメリッヒ特有の
外連に満ちた作品に対して本作はいたってオーソドックス、
より原作に近いものと思われる。
因にガロイの原作は、『構造世界』の邦題で翻訳もあるよう
だが、今回はチェックできなかった。
その原作から本作は、1973年に当時の西ドイツのテレビ局で
番組として16o製作されたもので、従って当時も数か国で放
送されたものの劇場公開はなく、そのまま幻の作品となって
いた。
その作品がディジタルリマスターされて劇場公開されるもの
だ。なお公開は第1部1時間45分と第2部1時間47分という
2部構成、合計3時間32分の堂々たる作品になっている。
それにしても本作は、正にバーチャルリアリティの嚆矢と言
える作品で、1973年当時にこのような作品が作られたという
事実に敬意を表したい。
それは原作があるとは言え、映画内での説明も巧みで物語へ
の織り込みも見事なもの。それが『マトリックス』の25年も
前に作られていたのだ。正にSF映画史でも特筆すべき作品
だと言える。
この作品を観られることに感謝をしたい。
公開は3月より、東京は渋谷ユーロスペース他で、全国順次
ロードショウとなる。

『蜜のあわれ』
「ふるさとは遠きにありて思ふもの」などの詩句でも知られ
る作家の室生犀星が、その晩年の1959年に発表した小説『蜜
のあはれ』を、2013年5月紹介『シャニダールの花』などの
石井岳龍監督が映画化した作品。
物語の舞台は池のある庭に面した和室。そこで初老の男と赤
いドレスの若い女性が戯れている。やがて女性は外出すると
言い出し夕方になって帰ってくるが、ネコに追われて尾びれ
が裂けたと言う。その女性は作家の飼う金魚だったのだ。

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02月07日(日)
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