ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■ゴッド オブ バイオレンス/シベリアの狼たち、ワールズ・エンド、パンドラの約束
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『ゴッド オブ バイオレンス/シベリアの狼たち』
               “Educazione siberiana”
ソビエト連邦スターリン時代に強制移住させられた少数民族
の姿を描き、イタリアでベストセラーとなって世界26ヶ国で
出版されたというニコライ・リリン原作の自叙伝的小説を映
画化した歴史ドラマ作品。
ソ連共産党書記長を1922年から1952年まで務めたスターリン
は第2次世界大戦後にナチスドイツ協力者を名目にした少数
民族の強制移住を実施。その多くはシベリアへの移住だが、
逆にシベリアから東欧への移住も行われた。
その強制移住はスターリンの死後、1956年にフルシチョフに
よって批判され無効とされたが、一部の民族が祖国へ帰還す
ることは1991年まで許されなかった。その中に本作の主人公
の祖父たちも含まれていたようだ。
そして物語は、現在はモルドバ共和国の一部と看做されてい
るが実効支配は及んでいないとされるウクライナ国境の小国
沿ドニエストル共和国の一地域リバーバンクを舞台に進めら
れる。因に本作は1980年生まれの原作者の自叙伝だ。
そこはスターリン時代に組織犯罪者の強制移住地とされてい
た場所で、そこには複数の民族の犯罪組織の構成員たちが居
住し、民族間の争いも絶えなかった。しかしその中で主人公
たちシベリアの部族は強力だった。
そして主人公は、厳格な祖父の許で部族の尊厳や掟などを厳
しく教えられて成長していた。ところがある日、主人公たち
は政府の輸送車の襲撃に失敗し、幼馴染だった仲間の1人が
主人公の身代わりとなって捕まってしまう。
それから数年後、服役していた幼馴染が帰ってくるが、過酷
な刑務所での暮らしはその人格を一変させていた。そして犯
罪組織の泥沼に沈んで行く幼馴染と主人公の間には、少しず
つ亀裂が生じて行った。
スターリンによる少数民族に対する強制移住の話は知ってい
たが、このような犯罪組織を対象にした移住が行われていた
ことは知らなかった。しかも彼らを一箇所に集めて管理しよ
うとしていたとは…。そこが温床になるのは明白だろう。
そんな極東の外れに住んでいると知らない世界の物語が展開
される。それは地名にも馴染みがないから取っ付き難いが、
描かれているのは正に人間ドラマであって、その背景に馴染
みがなくとも理解はできるものだ。
そんな民族の悲劇が見事に描かれた作品だった。
出演は、リトアニア出身の新人アーマス・フェドラヴィシウ
スと、同じく新人のヴィリウス・タマラヴィシウス。また、
ヒロイン役で2013年3月紹介『ジャックと天空の巨人』など
のエレノア・トムリンスンが出演。
さらに2013年2月紹介『ラストスタンド』などのピーター・
ストーメア。そして同年9月紹介『REDリターンズ』など
のジョン・マルコヴィッチが厳格な祖父役を演じて物語の全
体を引き締めている。
監督は、ベルリン国際映画祭の審査員も務めたイタリアの名
匠ガブリエレ・サルヴァトレスが担当。本作ではイタリアの
アカデミー賞とされるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞に作
品賞、監督賞を含む11部門のノミネートを果たした。
なお本作は日本では劇場公開はされず、3月7日にトランス
フォーマー社からDVDでリリースされる。題材的に日本人
には馴染みが薄いが、描かれている内容は人間ドラマだし、
他国の裏面史的な物語も興味を持つと面白いものだ。

この他にトランスフォーマー社からは、同日付で以下の2作
のDVDもリリースが予定されている。

『チャールズ・スワン三世の頭ン中』
   “A Glimpse Inside the Mind of Charles Swan V”

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02月09日(日)
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