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On the Production
by 井口健二
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■風の馬、This Is England、四川のうた、シェルブールの雨傘、7つの贈り物、ハリウッド監督学入門、ロシュフォールの恋人たち
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※
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『風の馬』“Windhorse”
1993年のニューヨーク・タイムズ紙に、1人のアメリカ人女
性がチベットの首都ラサでデモを撮影したことを理由に中国
警察に逮捕されてフィルムを没収されたという記事が掲載さ
れた。その記事に基づき1998年に製作された劇映画。
映画は、事件の当事者であるジュリア・エリオットが自らの
取材に基づく脚本を執筆。彼女の叔父でアカデミー賞受賞者
のドキュメンタリー監督ポール・ワグナーが演出。ジュリア
の仲立ちでカトマンズに住むチベット難民の人々が協力して
製作された。
物語の主人公は、地方から家族と共にラサに移住してきた兄
妹。その妹はディスコ歌手として中国人のプロデューサーに
も認められ掛かっており、一方の兄は、中国人の支配は嫌い
だが特に抗議行動をするでもなく、仲間とつるんで酒やビリ
ヤードに明け暮れている。
ところが抗議行動をした尼僧が逮捕される事件が起き、やが
て「尼僧を釈放するから身柄を引き取りに来い」という連絡
が家族に届く。その尼僧は兄妹の幼馴染みの従兄弟で、そし
て引き渡されたのは、拷問により瀕死の状態となった尼僧の
身柄だった。
その姿を観た兄は、偶然知り合っていたアメリカ人女性にそ
の状況をヴィデオで撮影することを依頼。そのカメラの前で
尼僧は刑務所での残虐な拷問の様子を語り始める。しかしそ
の動きは警察に知られることとなり…
この他にも、チベット警察が行う僧院弾圧の様子や歌手の妹
が毛沢東を賛美する歌曲をレコーディングするシーンなど、
中国政府によるチベット弾圧の実態が再現されて行く。
しかも撮影はMTVと称してラサ市内でも敢行されており、
撮影された街路に屯する人々の様子や破壊された仏像などの
シーンは本編の中に巧みに挿入されている。
さらに、カトマンズのロケセットで行われたクライマックス
シーンの撮影後には、内容を察知した親中国のネパール警察
による捜索も受けたが、その直前に撮影済みテープの国外持
ち出しに成功したとのことだ。
そして完成された映画の上映では、中国政府による抗議や妨
害が繰り返されたが、サンタバーバラ映画祭でのプレミア上
映を初め、フロリダ、ワシントンDC、トロント、ロッテル
ダム、東京、メルボルン、シドニーなどの各地の映画祭でも
上映されたということだ。
1997年にはブラッド・ピット主演“Seven Years in Tibet”
と、マーティン・スコシージ監督の“Kundun”が公開され、
チベット問題が注目された時期ではあるが、これらの大作が
モロッコや南米でチベットを再現したのに対して、本作では
現地ロケが敢行されている。
それは予算上の問題などもあるが、それだけ現地に近い作品
ということは言えるだろう。そしてここに描かれたチベット
の状況は、昨年北京五輪前にも明らかになったように、10年
経った現在も全く変っていないものだ。
なお本作のクレジットでは、中国政府の訴追を怖れるため尼
僧を演じた女優を始めとする多くの名前の欄に‘withhold’
の文字が記載されていた。
『THIS IS ENGLAND』“This Is England”
1982年のフォークランド侵攻を進めるサッチャー政権を時代
背景に、中東からの移民に職を奪われたとするイングランド
人の間に巻き起こる国家主義の姿を描いた作品。
主人公はまだ幼さも残る少年。学校では虐めも受けているそ
の少年が、ちょっとした偶然で町の不良グループと付き合い
始める。しかしそれは、やがて国家主義者たちとの交流も深
めていくことになる。
その不良グループにはジャマイカ出身の黒人青年などもいた
が、国家主義者たちはその状況も踏まえて巧みに彼らに近寄
ってくる。そして純粋な少年は、彼らの主張に容易に感化さ
れて行ってしまうのだが…
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01月18日(日)
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