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On the Production
by 井口健二
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■チェンジリング、遭難フリーター、花の生涯:梅蘭芳、連獅子/らくだ、パッセンジャーズ、PVC−1、ザ・クリーナー
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『チェンジリング』“Changeling”
この作品の製作については、2006年7月15日付の第115回な
どで紹介したが、当初はテレビSFシリーズ『バビロン5』
の企画者でもあるJ・マイクル・ストラジンスキーが脚本を
手掛けたという情報で、ジャンル映画を期待したりもしたも
のだ。因に原題は、妖精が子供をさらった際に置いて行く身
替りのことを指している。
ところが、最初はロン・ハワードの監督とされていた計画に
クリント・イーストウッドが参入し、さらにアンジェリーナ
・ジョリーの主演となって、これは只ものではないという感
じがしてきた。
そして完成された作品は、1928年にロサンゼルスで発生した
少年行方不明事件の実話に基づく、1人の母親の信念の物語
が展開されるものとなっていた。
1928年3月10日、母子家庭の母親が急な仕事で家を離れた隙
に、その家の1人息子の姿が消える。しかし警察は、母親の
訴えに「子供の行方不明は24時間経つまで事件としない」と
回答し、24時間後の訴えにもその対応は鈍いものだった。
一方、当時のロサンゼルス市警は、専横的な市長と警察本部
長の許、警察官には独自の判断で容疑者を射殺する権限を与
えるなど異常な体制となっており、そこには違法捜査や汚職
などの腐敗も噂されていた。
ところが母親の訴えから5か月後、市警青少年課の警部から
少年発見の知らせがもたらされる。そして、多数の報道陣と
共に駅で出迎えた母親の前に1人の子供が現れる。
しかしその少年の姿は、母親には一目で自分の息子ではない
と確信させるものだった。
これに対して逆風の中、自らの手柄と大々的に発表した警察
は後に引くことができない。そして警察は母親に息子と認め
ることを強要し、それでも「子供を探して」と訴え続ける母
親には制裁の手段を選ばなくなって行く。
その結果は…
先月紹介した『ポチの告白』でも、映画の最初の方で警察の
横暴ぶりが紹介され、物語の背景が提示されることで映画の
世界に引き込まれたが、本作の場合も最初に1920年代の異常
な警察の姿が描かれることで、この物語の本質が俄に把握で
きるようになっている。
このように世界観の構築が適切な作品は、その後の物語への
感情移入や展開の理解も容易に行える。この作品はその点で
も見事なものであり、2時間21分の上映時間が全く長さを感
じさせず、むしろ終ったときに短くも感じられたものだ。
映画は1920年代のロサンゼルスの景観の再現も素晴らしく、
また、アンジェリーナ・ジョリーの母親としての演技など、
見終っても心を揺り動かされるような作品だった。

『遭難フリーター』
仙台出身の男性が、大学卒業後に東京に憧れて派遣社員とし
て埼玉県本荘市のキャノンの工場で働く。その1年間をヴィ
デオで綴った67分の作品。
時給1250円、ボーナス、昇給なし。これで月収は19万円ほど
になるが、派遣会社からあてがわれた住居費などが天引きさ
れて手取りは12万円。そこから借金の返済などに6万円が充
てられ、その残りで飲食を含めた生活が賄われる。
もちろん借金の返済が済めば多少は楽にはなるのだろうが、
それにしてもぎりぎりの生活だ。これが大学も出た現代の日
本の若者の姿。それは仙台に実家に帰ればまた別の面もある
かもしれないが、彼自身は東京に居たいと言う。
試写会は主演もしている監督の質疑応答付きで行われたが、
そこの発言でも、仙台で仕事が保障される訳でもないし、む
しろ東京の方が可能性は高いと考えてもいるようだ。そんな
現代の若者が置かれた現状が、かなり鮮烈に描かれた作品と
も言える。
映画の中で主人公は、お盆などの工場が休業の時は現金収入
が減るので、他に日雇い労働に出かける。そして憧れの東京

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12月21日(日)
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