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On the Production
by 井口健二
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■ローン・レンジャー、共喰い、おしん、ストラッター、美輪明宏、マッキー、セブン・サイコパス、私は世界の破壊者となった(書籍)
なのに人が安易に殺される展開が気になった。その前にも以
前の作品は評価したアメリカのコメディシリーズで、3作目
はやたらと人が殺されて辟易したこともある。
それが今の世界の映画の傾向なのかとも思ってしまうが、そ
の点で言うと本作もその傾向の作品だ。ただし本作の場合は
元々のテーマがサイコパスである訳で、それが許せるという
か、これこそが本物、まがい物はそこ退けという感じなのも
見事な作品だった。
ここまでやってくれれば、逆に爽快感も出てくるくらいのも
のだ。そしてその殺しのシーンにも過去の様々な名作を参考
にしているとのことで、脚本の世界と現実の世界が入り混じ
る複雑な物語を見事に映像化している。
脚本家が主人公で虚構と現実が入り混じるお話では、2003年
5月紹介『アダプテーション』など気に入っている作品もい
ろいろあるが、その中にまた愛すべき作品を観たようだ。
『私は世界の破壊者となった』
“Trinity: A Graphic History of the First Atomic Bomb”
本作は書籍で、すでに販売もされているものだが、本を贈呈
されて読んでみたら、将来映画化されても面白いと思わせる
作品だったので、その期待も込めてここで紹介する。
物語は、原題にある通りの人類最初の原子爆弾を巡る出来事
を、残された文献や関った人々が当然したであろう発言など
で描いて行く。そこにはキーパースンとしてJ・ロバート・
オッペンハイマーやトルーマン大統領も登場するが、全体と
してはキュリー夫妻の研究から説き起こして原子爆弾開発の
歴史があらゆる側面から描かれているものだ。そしてそこに
は原子力に潜在する危険性が克明に描かれていた。
しかも作品は、前半では時間軸を前後に振りながらその瞬間
に向かってドラマティックに展開されており、その映画的な
構成も巧みなものになっている。それが本作を映画化しても
面白いと思わせるポイントだ。実際に前半何度か挿入される
その瞬間までのカウントダウンと各エピソードとの転換は、
このままアニメーションにして観てみたいと思わせた。
内容的には、理科系で僕らの年代の人間だとすでに聞き知っ
ている情報も多かったが、改めて整理されて提示されると理
解も進むし、新たな視点で見られるのも有難かった。そして
このような歴史に興味を持たない人にも、今の自分たちの置
かれている状況を知るという意味で、是非読んで欲しいと思
わせる内容だ。
それくらいにこの作品は原子力のことを本質的に描いている
し、我々が今どういう状況にいて、これからどうすべきかを
考えさせる作品だ。だから興味のない人にもこの本は是非手
に取って貰いたい。いや手に取らないならアニメーションに
でもしてより多くの人に観せたいものだ。
原著者はジョナサン・フェッター・ヴォーム。スタンフォー
ド大学で歴史学を学び、古典文学や自然科学書をグラフィッ
ク・ノヴェル化して出版する事業を興したという作者の年齢
は本書の紹介文では明らかにされていなかったが、別のイン
タヴューで、「冷戦の最初の記憶がベルリンの壁の崩壊」と
語っているからかなり若い人のようだ。そんな人が原子力の
脅威を真剣に捉えた物語だ。
日本版は翻訳:内田昌之、監修:澤田哲生、出版:イースト
プレス。因に翻訳では原著に数箇所の誤りが見つかり、それ
らはフィードバックした上で訂正されているそうだ。
また本書は、書店によって科学や歴史など様々な棚に置かれ
ているということで、探すのに多少手間取りそうだが、是非
手に取って貰いたい本だ。
07月20日(土)
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