ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■ガレキとラジオ、ボクたちの…、ゼロ・ダーク・サーティ、グレイヴE2/モスキートM、アウトロー、幕末奇譚、わすれないふくしま、約束
さらにその子供たちは、将来に障害が発生することや、自分
の子供に影響が出ることなどの不安を語っていたが、その不
安が現実となっているチェルノブイリは国家事業。今次々に
原発再稼働を進める為政者にその意識はあるのか、最後は私
企業の問題として責任を転嫁するのか?
福島原発による被害を主題としたドキュメンタリーでは、昨
年8月に『フタバから遠く離れて』を紹介したが、その作品
の中で原発の推進から反対に転身した双葉町町長は、あっと
いう間に町議会で不信任案を可決されたようで、それを可決
した議員の姿勢も問われるところだ。
年明け早々には放射能汚染土壌の処理をめぐる不正行為など
も次々に明らかにされ、その背後に潜むものの恐ろしさも感
じられる作品だった。

『約束』
2012年5月紹介『死刑弁護人』に続く東海テレビ制作による
名古屋高等裁判所をめぐる司法の闇を描いた作品。前作は純
粋なドキュメンタリーだったが、本作では死刑囚自身を描く
ために一部にドキュメンタリー映像も含む再現ドラマ作品と
なっている。
その死刑囚の犯罪とされるのは、1961年に起きた「名張毒ぶ
どう酒事件」。三重県名張市の山間の集落で集会所に集まっ
ていた住民の内、女性だけに配られたぶどう酒に農薬が混入
され、5人が毒殺されたというものだ。
そして逮捕されたのは当日ぶどう酒を自治会長宅から会場ま
で運んだ人物。彼には死亡した妻ともう1人の女性との間で
三角関係があり、それを一挙に解消するため2人とも毒殺し
たとされる。しかも逮捕から数日後には、記者会見で自らを
犯人と認める発言をしてしまう。
こうして裁判が始まるが、物的証拠は犯人が毒物を入れるた
めに歯でこじ開けたとするビンの王冠だけで、他は自供のみ
による立件だった。そして裁判で被告人は一貫して無実を訴
え、自供は強制されたものであるとの主張を繰り返す。
その結果は、一審の津地方裁判所では無罪となったものの、
検察が控訴した名古屋高等裁判所で、1969年逆転の有罪死刑
判決が下される。以来43年、逮捕からは51年、死刑囚奥西勝
は、名古屋拘置所の独房の中で無実を訴え続けている。因に
日本の裁判で無罪から一転死刑判決となったのは、本件が戦
後初めてのことだったそうだ。
また、その後の7次に及ぶ再審請求はことごとく棄却されて
いるが、その中では名古屋高等裁判所で一旦は請求が認めら
れたものの、検察の異議により別の裁判官が棄却。さらには
最高裁で証拠を再調査するようにとの理由付けで差し戻され
たが、名古屋高等裁判所では証拠調べはせずに棄却など…。
この作品を観る限りでは、名古屋高等裁判所では到底真っ当
とは言えない事態が続けられている。しかも先に再審を認め
た裁判官はその後に辞職し、検察の異議を受けて請求を棄却
した裁判官はその後に昇進したそうだ。
死刑囚の再審問題では、2010年3月に高橋伴明脚本、監督に
よる『BOX 袴田事件 命とは』を紹介しているが、死刑囚
の再審が認められ無罪となったのは、免田、財田川、島田、
松山のたった4件。その道が険しいのは判るが、それにして
も名古屋高等裁判所の不可解さは際立つ作品だった。
なお再現ドラマには、仲代達矢、樹木希林、山本太郎らが出
演し、ナレーションは寺島しのぶが務めている。脚本と監督
は『死刑弁護人』など東海テレビの「司法」シリーズを手掛
けるディレクターの齊藤潤一が担当した。

01月10日(木)
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